会議室で挙げる異例の結婚式

年が明け2017年の元旦。大晦日にプロポーズした俺は、神奈川県の実家に彼女と2人で帰ることにした。自宅のリビングで俺は切り出した。

「ともえと結婚することにした」

妹たちは喜んでくれたが、母親はそっと席を立ちキッチンへ向かった。一生一人で過ごすのではないかと心配していたダメ息子が、立派な相手を連れてきたことに感極まったようで、台所で涙をこぼしていたらしい。そんなに心配をかけていたなんて、まったく知らなかった。

翌日は彼女の実家へ。ご両親や兄弟に報告すると、彼女のお父さんは「ヤッター!」と喜んでくれた。彼女の兄弟たちもみんな喜んでくれて、俺にお金がないことなんて全く気にしてないようだ。

芸人仲間にはライブ終わりの打ち上げで「明日入籍する」と報告したら、とても喜んでくれた。その日の深夜に、区役所に2人で婚姻届を出しに行った。

2017年1月27日の深夜1時過ぎ。婚姻届と書かれた紙切れをしみじみと見つめる。金はなかったけど、幸せだと思った。俺は区役所の廊下で心の中で誓った。金がないなら、深夜までバイトする。彼女が病気になったら、家にいて看病する。世界中が彼女の敵になろうとも俺だけは味方でいる。一生守る。何があっても大丈夫。俺はこの子を幸せにする。

籍を入れるにあたって、結婚式もしたいと思っていた。奥さんは結婚式はやらなくていいと言っていたが、一生に一度くらいはそんな贅沢をしてもいいだろう。

だが、見学に行ったホテルや式場はとてつもない金額だった。これではどう逆立ちしたって無理な額だったが、天王洲にあるホテルは雰囲気がよく、さらに担当してくれた女性のプランナーさんが、すごく親身に話を聞いてくれた。

俺はカッコ悪いと思ったけど、自分たちの状況を正直に伝えた。

「売れてない芸人なのでお金がなくて……できるだけ費用を抑えたいんです」

何度も「これが限界です」と言われたが、更に値段交渉をした。俺の熱意に根負けしたプランナーさんは、ある提案をしてくれた。

「ウエディングプランで結婚式場として使うとこの価格が限界なのですが、会議室として使うのでしたら、グッとお安くなりますよ」

花柄の綺麗な見積書から地味な見積書に変わったが、予算は実に100万円以上下がった。これならイケるかもしれない。飾り付けや演出が地味になるというが、そんなのはどうでもいい。なぜなら、俺には結婚式を盛り上げてくれる大勢の仲間がいるから。