かわいい後輩の事務所移籍
俺はあえて厳しい言葉を口にした。
「今のお前らは、おもしろ荘で優勝したのにそれを活かせず、仕事も増えてないし、ステップアップもしてない腫れ物みたいな存在だぞ。来てくださいなんて事務所ないよ。入れてくださいとお願いしてギリギリどうなるかだと思う」
俺の言葉を聞いた松井は「えっ!」という顔をした。きっと自分たちの評価を高く見積もっていたんだろう。そのついでに、俺は前から思っていたことをアドバイスすることにした。当時の松井は着物姿でネタをやっていたが、それがずっと気になっていたのだ。
「着物のままだとイロモノだと思われる。スーツを着て、ちゃんとしたした漫才師のスタイルで挑んだほうがM-1の評価が上がると思う」
根が真面目な松井は、俺の言葉を噛み締めるようにして家に帰っていった。
数日後、松井から連絡があった。
「TAIGAさんと一緒にお笑いやらせてください!」
松井が俺のことを多少なりとも頼ってくれたのがうれしかった。だが、売れてないし影響力もない俺の一存で事務所への所属は決めることはできない。慌ててカンニングの竹山さんをはじめとする先輩、マネージャー陣に「ぺこぱがうちに来たいそうなので、お願いできないでしょうか?」と頭を下げて回る。
その数日後、竹山さんがMCを務めるAbemaの番組にぺこぱが呼ばれた。
「お前らサンミュージックに入りたいんでしょ? ウチに入れよ」
竹山さんのその一言で所属が決まった。
事務所ライブに行けば、ぺこぱがいる。それがなんだかうれしかった。事務所ライブが開催されていたのは、いつも新宿の小さな会場だった。ある日、俺を見かけて挨拶に来る松井とシュウペイの様子が、いつもと違うことに気づく。
「TAIGAさんのアドバイスのとおり、衣装をスーツにしました!」
前の事務所で辛苦を共にした後輩は、数年経ってもかわいい後輩のままだった。
(構成:キンマサタカ)