脂絵が欲しい人はラーメン屋さんになって(笑)

新チトセの名がラーメン好きに知られるきっかけになった「脂絵」。これはどのような経緯から始まったのだろうか。

「コロナ禍に新チトセのアカウントを作ったんです。その理由は、私が敬愛しているラーメン二郎京急川崎店が臨時休業になっちゃったから。私、ラーメン食べる以外にやることが本当になくって(笑)。ほかの二郎も臨時休業になっちゃうし、何か新しいことを始めてみようかなって。そこでラーメンを描くようになったんですよね」

印象派の画家は、そのときの精神状態が作品に反映されると聞いたことがある。推しのラーメン屋が休業していて、そのラーメンが食べたくなるのはわかるが、ラーメンを描くというのは、画家としては素直な気がするが……。

「おかしいですよね(笑)。でも、食べたいと同時に、描きたいってなったのにも大きなきっかけがあります。同じ時期に、画家としてもっと学びたくて、いろいろな絵画教室に通っていたんです。そこで川田龍さんという画家と知り合いになって。

その方の作品が売れていくのを見て、私はこれまで絵を売ったことがほとんどなかったけど、こうやって自分の表現で対価を得てみたいって強く思って。川田さんの画力には勝てないけど、自分にしかできないことって何かなと考えたときに“ラーメンへの愛”だと思ったんです」

漫画『ブルーピリオド』に登場する村井八雲のモデルとも言われる川田龍。そんな彼に「ラーメンをモチーフにした画家を目指します」と伝えたら、「ラーメン、すごくイイね! 油絵じゃなくて“脂絵”にしたらどう?」と褒めてくれたとうれしそうに話す。

「そこからは早かったですね、関内二郎、川崎の二郎……私の場合、5個くらいキャンバスを並べて、ちょっとずつ描いていくんです。油絵って乾くのが遅いので、同時進行でいくつもやるんです」

こうしてTwitterで「脂絵」として告知するうちに、うちのお店も描いてほしいとラーメン二郎西台駅前店から依頼を受け、そこから彼女の作品は広がりを見せていった。現在はラーメン二郎西台駅前店のほか、ラーメン二郎横浜関内店、ラーメン二郎小岩店、ラーメン二郎品川店、ラーメン二郎ひたちなか店、ラーメン二郎中山駅前店などで見ることができる。

▲ラーメン二郎京都店の脂絵

「今は個人利用向けの依頼は受けてなくて、お店に飾っていただく目的でしか描いてないですね」

では、個人で彼女の脂絵を手に入れたい方は、どうすればいいのだろうか。

「それはラーメン屋さんになっていただいて、依頼をしていただいて、飾ってもらうしかないですね(笑)。この話は“自分の表現で対価をほしい”というきっかけとは矛盾してしまうんですが、絵の出来上がりを見たら、手放したくなくなるんですよ。でも、お店に行けば見られるじゃないですか。それが個人になっちゃうと、好きなときに見に行けないから…(笑)」

▲ラーメン二郎中山駅前店の脂絵

彼女のラーメンと絵への愛があふれているのがわかったが、脂絵が欲しい人も多そうだ。

「そうですね、フォロワーさんからも絵が欲しいと言われるんですけど、私は、自分の脂絵をもっともっと価値のあるものとして上げていきたいんです。この先、もっと私の絵の価値が上がったら考えちゃうかもしれないけど(笑)、今のところ、売る気はないですね」