医師の「死亡診断書」による死のほかに、認知症という“法的な死”があることは、あまり認識されていない。もし、親が認知症になると、親が積み立てた預金なのに家族は引き出すことができず、自宅の売却さえもできないという「財産凍結」の憂き目に遭ってしまうのだ。そんな悲劇を回避するためのポイントは“親が認知症になる前の相続対策”する、これに尽きる。
会計・税務対策の第一人者である牧口晴一氏が、このような“悲劇”を起こさないための、認知症になる前にやっておくべき相続手続きについて、わかりやすく解説します。
※本記事は、牧口晴一:著『日本一シンプルな相続対策 -認知症になる前にやっておくべきカンタン手続き-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
相続対策は認知症になる前にやっておく
相続は“手続き”です。だから、本音を言えば、なるべく手間をかけたくありません。
「親子なんだから、スポン! と移してくれればいいじゃないか」と言いたくもなります。
しかし、現実には大変な手間がかかります。だからこそ、自分の財産も法的にしっかりと守られているわけです。家族だからといって、簡単に財産が配偶者や子どもに移動できるようでは、安心できません。
相続でも同じです。「本物の相続人」を証明する戸籍を故人の生まれた日に遡って用意し、どこに相続財産がいくらあるかを調べ、分割協議書に印鑑証明書を付けて実印を押し、銀行で手続きをして、法務局で登記し……これらは最低限しなければなりません。
ところが、実際には、この手続きの前に思わぬ落とし穴が、それこそ幾つもあって、手続きに大変な手間と時間と費用がかかってしまうのです。実際に相続が始まってからだけでも、そもそも財産はどこに、何があるのかわからない。
わかったとしても遺産分けをめぐって家族間でもめる。さらには、もらっても売れないものなら納税できないなど……。
さらに重要で、特に最近注目されているのが、亡くなる前の問題です。認知症になると自分の預金なのに引き出せず、施設入居の一時金のための自宅売却もできない「財産凍結」の憂き目に遭うのです。すると、死ぬ前から手続きは困難になり、費用もかかり、家族のもめ事が急増します。もちろん相続対策の贈与もできなくなり、やがて遺言書も書けなくなります。
これらを、困らないようにする! そして、できるだけ安くシンプルにするにはどうしたらいいか。
そのポイントは“認知症になる前の対策”に尽きます。
さらに、これは従来の相続対策に欠落していた“財産凍結を回避すること”ができます。また、その過程で主な財産が明らかになります。
なんといっても本人はまだ生きているのですから、財産の所在は明らかです。
その結果、親も得をするので協力が得られて、「相続対策」までもシンプルにできるのです。