少子高齢化による年金問題が取り沙汰されている現代日本。しかし、考え方を変えれば少子高齢化はうれしいことだと語る元外交官の馬渕睦夫氏。年金問題や社会保障といった問題にとらわれず、少子高齢化の社会を豊かな時代として生きるためには、我々はどのような考えを持つべきなのだろうか?
※本記事は、馬渕睦夫:著『道標(みちしるべ) -日本人として生きる-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
本当の人生は70歳から始まる
馬渕 田中英道先生(歴史家・美術史家)がお書きになった『老年こそ創造の時代』(勉誠出版/2020年)というご本のなかで、「70歳までは人生の予行練習」というくだりがありました。また、森信三先生(哲学者・教育者)の『修身教授録』(致知出版/1989年)にも同様の主旨で、「四十にして仕(つか)う」と書かれています。
これは何かというと、「40歳までは予行練習で、本当の人生は40歳から始まる」という意味です。森先生の本は戦前の本だから、その頃の平均寿命は50歳か60歳ですよね。
今は寿命が30年か40年延びている、とすれば、当時の40歳は今の70歳だから、言っていることは同じなんです。70歳までを準備期間として、そこで一つの転機に達するということだと解釈しています。
往々にして人は、自分の若かりし時代が準備期間であることを知らずに、ただ過ごしていくのですね。そして、一生を準備期間のまま終わってしまう人がほとんどじゃないでしょうか。
僕の講演を聞きに来る人は、シニアの方々が多いのですが、今のようなお話をするわけです。そこには会社をリタイヤした方もいれば、専業主婦の方もいる。
「皆さん、準備期間を終えて、これからがいよいよ本当の人生が花開くんですよ」というふうに話すと皆さんの目がキラキラしてきますよ(笑)。
――なるほど。勇気付けられますね(笑)。
少子高齢化は恐るべきものではない
馬渕 少子高齢化という言葉をよく耳にしますね。まるで高齢化が困った存在のように言われますけど、いま言ったことに気付けば、それは決して悪いことではない。高齢化社会というのは、いよいよ「創造の時代を迎えた人が日本に増える」ということです。
そういう人たちをいかに活用していくか、それまでとは違った形でいかに活躍していただくか、というのが、本当の意味での高齢者対策ではないでしょうか。こういった発想は、戦後の経済優先のものの考え方からは、残念ながら出てこないのですね。
それから、現役の厚労省の社会保障担当の、30代から40代の官僚の頭の中からも出てこないでしょう。なぜなら、彼らはまだ“準備期間”にいるからです。人生というものが包括的に見えていないのです。
――高齢化社会の一つの問題として、介護や年金制度の崩壊などが話題になりますね。
馬渕 確かにそういう問題もあります。ただ、そこで止まると、唯物論的な考えで終わってしまいますね。
老後を快適に過ごすとか、介護の充実というものは切実な問題かもしれないけど、若い人が働き、税金を納め、高齢者が年金という果実をいただくという、つまり「与える側と与えられる側」という一方通行の考え方だけだと、当然、限界があるわけです。
少子化で高齢化の社会においては、そういう発想は、もうすでに行き詰っていると言えるでしょう。