爆笑問題の太田光が11年ぶりの小説『笑って人類!』(幻冬舎)を出版した。主要国リーダーが集結する“マスターズ和平会議”に、極東の小国・ピースランド首相の富士見が遅刻したことから惨劇を免れ、ドン・キホーテのごとく立ち上がる、というストーリー。架空の国を舞台にしながら、現代社会が抱える問題ともリンクしており、そのうえで太田が思い描く未来への希望が込められたエンターテインメント小説だ。

この作品は、主人公が土壇場の立場からスタートするが、これを書いた太田自身も多くの土壇場を経験しているだろう。そう感じたニュースクランチ編集部が、同作に込めた想いとともに、太田の土壇場について聞いた。ちなみに、太田が持っている花はカラーという花で、作中の印象的な場面に出てくる。

▲俺のクランチ 第23回(前編)-太田光-

映画化がボツになったから小説にした

「これを映画化するには、かなりお金がかかるだろうって言われたんですよね。それを聞いて、まあそりゃそうか、特撮だもんなって(笑)。ボツ食らっちゃったんで、それも土壇場と言えば土壇場だったかな」

11年ぶりとなる長編小説『笑って人類!』は、もともと映画化を目指して書かれたものだった。かねてより太田は、映画への想いをたびたび口にしていた。20年以上前のラジオ番組では、ティム・バートン監督の『マーズ・アタック!』みたいな作品を撮りたいと語っていた。

「そうそう。『マーズ・アタック!』みたいな、全く意味のないガチャガチャした、要するにスラップスティック・コメディ。ああいうのが撮りたかったんだけど、本当に大変だろうなって」

以前、太田はビートたけしから「映画を撮るなら1発目に当てろ」「コメディを撮るならお金をかけろ」とアドバイスを受けたことがあるという。

「映画化は難しいとなったんで、じゃあ小説にしようと思ったんです。最初に映画のシナリオとして書いたけど、映画にするには長いかなと思って削ったところを、小説にするにあたって戻しました」

▲『笑って人類!』は映画にする予定だったという

たしかに、2段組532ページ、原稿用紙にして1200枚というボリュームは、爆笑問題の太田光という人間を知っていればいるほど、不思議に感じるかもしれない。バラエティ番組での太田は、しばしば話が長いとヤジられツッコまれるが、漫才のネタに関して言うと、緻密に構成されたネタを作り上げる人なのに、この作品は冗長ではないかと。ただ、これは必要な長さだと、読めばすぐにわかる。

「映画のシナリオから小説にするにあたって、カットしていたそれぞれの登場人物が、そこに至るまでの背景の部分を戻したんです。やはり小説という分野で、人物をしっかり描くには、これくらいの分量が必要なんですよね」

そう太田が語る『笑って人類!』には、主人公である富士見首相をはじめ、魅力的な登場人物がたくさん登場する。かつて「太田総理」としてテレビに登場していた太田を、読者は富士見にダブらせて読むかもしれないが、実際、この作中において太田自身が一番自分に近いと思うの人物は誰なのか聞くと「じつは映画にするとしたら、俺は秘書である桜をやる予定だった」と教えてくれた。

太田が演じる予定だったという桜は、総理の富士見に仕える食わせ者の秘書として描かれる。基本的にはシニカルな考えで、腹に一物を抱えながら、ダメ総理と世間で揶揄される富士見の信念を心から尊重している。

「物語の主人公は富士見だけど、桜には想い入れが強いですね。富士見は……誰に似てるかな、いろいろな要素があるけども、本当のことを言うと『社長シリーズ』の森繁久彌さんなんですよね。周りには個性的な社員がいて、カッとなりやすくて短気で、キザで女性に対して下心がある、でも奥さんには頭が上がらない憎めない男。あんなイメージですね」