スベっても失うものがない地下ライブ
大きなライブ会場やテレビなどで活躍するのがメジャーアイドルだとしたら、小さなライブハウスなどで活躍するのが地下アイドル。芸人版が、地下芸人だ。これまで、あまり知られていなかった「地下芸人」という言葉だが、チャンス大城さんやぺこぱなどのブレイクによって、だいぶ浸透してきたと思う。
俺たちからすると、どこからが地下で、どこからが日の当たるライブかわからない。売れてない芸人が出るライブが「地下」だとするならば、サンミュージックの事務所ライブもカンニング竹山さんやぺこぱやメイプル超合金などは出ていないので「地下ライブ」と言えるかもしれない。だから俺も地下芸人の一人なのだろう。
一般に知られていないだけで、地下ライブは多岐にわたって存在する。
大手プロダクションに入れないフリー芸人だったり、聞いたこともないような小さい事務所の芸人、学生アマチュアが出るようなライブが、都内のいたるところで夜な夜な開催されているのだ。
劇場を貸し切れるだけまだましで、区民会館の畳敷きの和室や、雑居ビルの会議室、夜はBARになるスペースを間借りして行うライブもあった。しかも、主催者は業界に“つて”もないお笑い好きの一般の方だったこともあった。手作り感があふれるライブこそが地下ライブで、そこに出ているのが地下芸人なのだろう。
好きこのんでそんなライブに出たいわけでもない。でも、客も少なく、たとえスベっても失うものがない地下ライブは、新ネタを試したり場数を踏むためにはもってこいの場だった。
俺も大きな大会が近くなると、知り合いの芸人に「なんか出れるライブないかな?」と聞いて、地下ライブにエントリーしていた。ちなみに、地下ライブはギャラが出ないどころか、会場代を芸人たちが負担するのが一般的で、ライブに出るために2000円ほど払う必要がある。だから、地下芸人たちはライブに出るために、バイトに精を出す。
思いつきでつけたような名前のライブに出演しているのは、一度も名前を聞いたことがない芸人たち、なんてことはざらだ。ある日、顔見知りの芸人が「今日のライブは豪華ですね!」と喜んでいるから、他に有名芸人が来るのかと思いきや……。
「TAIGAさん! くじらさん、冷蔵庫マンさんが出るんですよ!」
「全然豪華じゃねーじゃねーか!」
こんなやりとりを幾度したことか。ほんの少しだが、テレビに出ている俺が行くと、ちょっとしたゲスト扱いされたこともある。それが心地よかったりもした。