マロ、ふくろう博士、てるてる猫”に込められた思い

――専門家からの反応はいかがですか。

安中 例えば、医療機関では頭痛に悩む患者さんが症状を記録する「頭痛ダイアリー」を配布しているのですが、この代わりに「頭痛ーる」の利用を提案している、とった例を耳にしています。

――頭痛ーるには、痛みを記録するほかに「服薬記録機能」もありますね。

安中 慢性的な頭痛を持つ方ほど、薬の服用が日常的になっているので「どんな薬をどれくらい飲んだか」を忘れてしまいがちです。なので、ご自身で正確な状況を把握するため、また診察時に医師の先生へ共有することができるよう、この機能を作りました。

また、患者さんに気象病について説明する際、頭痛ーるが役立っているといった声をいただくこともあります。もともと気象病は、昔から専門家のあいだでよく知られる症状だったものの、あまり一般的ではなかったため、患者さんが納得できるよう説明をするのが難しかったそうです。

しかし、頭痛ーるがSNSで話題となり、だんだんと気象病が世の中に認知されていったからこそ、そのハードルが下がっていったと言ってもらえました。

――気象と体調の関係性は目に見えないからこそ、人々の理解を得ることが難しかったのですね。

飯山 気象病に悩む方にとって、周囲の理解を得ることはとても重要なことなんです。急な体調不良によってスケジュールをキャンセルしなくてはならない場合もあるため、強い不安感を抱いているケースも多いです。

――この本には、メンタルと頭痛の関係の密接さについても解説されていました。

飯山 ストレスによって自律神経が乱れ、片頭痛が起きることも多いので、頭痛を解消するためには不安の少ない生活を送ることが重要です。「この日は頭痛が起きるかもしれないから、大事な予定は入れないでおこう」「薬を準備しよう」など、事前に心構えができると安心できますし、ストレスも減ると思います。

安中 そのため、頭痛ーるにも目に優しい色合いや柔らかい形状のデザインなど、ユーザーの不安をできるだけ取り除くための工夫を施しました。アプリに登場するかわいらしいキャラクターたちも、体調不良に苦しむ方々の心に少しでも寄り添いたい、という思いから生まれたんです。今回の書籍も、アプリ上の色合いやデザインで気をつけていることを反映してもらいました。

▲アプリを開くと必ず目にする“マロ、ふくろう博士、てるてる猫”

――気象予報士「ふくろう博士(ひろし)」、猫の「マロ」、謎のてるてる坊主「てるてるネコ」ですね。そういえば、アプリで紹介されている彼らのビハインドストーリーが、ほのぼのとした見た目には似つかわしくないヘビーな内容で驚きました。

安中 「かわいいキャラクターなのに、なんでこんなに悲しい物語を背負っているんだ」と、たびたび言われます(笑)。でも、そういう複雑な設定を読み込んだり、ギャップに驚いているときって、少しでも痛みを忘れられるんじゃないかと思うんですよね。

――そんな意図があったのですか! 頭痛ーるには、ユーザーと同じ地域に住んでいる他の人たちの痛みの状況が、気圧グラフ上に表示される「みんなの痛みナウ」機能もありますね。これを見ていると「ツラいのは自分だけじゃないんだ」と感じることができて、安心します。

安中 自分が痛みを感じているときに、同じような状況の人がいることが可視化されると、孤独感が軽減されて安心しますよね。日々記録をつけながら、ご自身の体調に向き合う際の励みにしていただければと思っています。

――なるほど。逆に、皆が頭痛を感じているタイミングと、自分の症状にズレがある状況が続けば「これは気象病ではなく、他に原因があるのではないか」という気づきにもなりそうです。

安中 そうなんです。実際に頭痛ーるを使っていて異変に気づき、医療機関へ行ったところ、くも膜下出血を早期発見できたという声をいただいたことがありました。気圧に関係のない頭痛は、重篤な疾患が原因である可能性も大いにあるため、少しでも思い当たるふしがあれば医師に相談する必要があることもお伝えしたいです。

――気象病に対する理解が、これからもっと世の中に広がっていけばいいですね。

安中 そう思います。当事者の方も、自分の頭痛が原因不明だと不安感も募りますが、それが気候の変化によるものだとわかるだけで「天気のせいだから、しょうがないよね」と楽観視できるところもあるんじゃないかなと。

逆に、例えば会社で「みんなの様子がおかしいな」と感じた上司が、頭痛ーるを見て「そうか、今日は低気圧だから仕方ないよな」と思うことが当たり前になっていけば、より生きやすい世の中になっていくのではないかと思います。