SNSで話題となっている画像生成LINEアプリケーション「お絵描きばりぐっどくん」。好きな文章を送信すると、数秒で画像を生成してくれるアプリだ。

このアプリを開発したのは、九州工業大学情報工学部4年の西野颯真氏。現在(2023年3月時点)では、友達登録240万人を超える人気アプリの開発者である西野氏にインタビューを行い、開発に至った経緯から、高校時代に影響を受けた友人の話などを語ってもらった。

▲Fun Work ~好きなことを仕事に~ <アプリ開発者・西野颯真>

リリース時は資金をバクバク食うモンスター

――「お絵描きばりぐっどくん」を開発したきっかけを教えてください。

西野颯真(以下、西野) 「お絵描きばりぐっどくん」に使っている画像生成AI「Stable Diffusion」がSNSで話題になっているのをTwitterで見かけて、それがオープンソースで提供されていたので“実際に触ってみたい”っていう気持ちになり、手元で動かしてみたらめちゃくちゃ感動したんです。

ただ、専用のスペックを要求されていたり、英語でプロンプト〔コンピュータへの入力を促す表示〕を入力しないといけないなど、やるまでのハードルがめちゃくちゃ高いので“気軽に触れるものじゃないな”と思いました。僕はこの部分を全部ショートカットして、文章を送ったらすぐに画像が返ってくるサービスを作れないかなと思い、実際に作ったという流れです。

――開発をするうえで大変だったことはなんでしょうか?

西野 コスト面ですね。裏話をすると、リリース当時は画像生成1枚あたり1.4円ぐらいかかっていて、これを30万人が一気に使ったら、1日に1枚描くだけで×30万になるので、資金をバクバク食うモンスターになっていました。「お絵描きばりぐっどくん」は、ある程度予算が決められていて、本当は1週間以内にサービス終了するって話にまでなっていましたね。

だけど、開発面でコストをどんどん下げて、なんとか実装できるように動かしていきました。そこまでがすごく大変でしたね。

――お金がどんどん減っていくのが目に見えてわかるのって、すごく怖いですね……。

西野 本当にそうですね(笑)。バズった日の夜は、Discordで会社の人と話しながら、僕はコストカットのチューニングをして、ほかの方がサービス料金がどれくらいかかっているかを毎秒リロードして「西野さん、今これぐらいかかっています」って伝えてくれるみたいな。

――素人質問で恐縮なのですが、どのあたりにコストがかかるのでしょうか?

西野 お絵描きAIが日本語に対応していないので、日本語で送ったテキストを英語に翻訳するフェーズでお金がかかります。ここでは翻訳サービスをつかっているので、サービスの利用料もかかります。そして、英語にした文章をAIにかけるんですけど、このAIは計算するコストがめちゃくちゃかかるんです。

普通のノートパソコンだと動かせないようなスペックが必要になってくるので、強いGPU〔リアルタイム画像処理に特化した演算装置〕を借りる必要があるんですけど、そこにもお金がかかってしまう。この2つが大きなネックポイントでした。

現在はコストカットに成功

――どのようにコストダウンを図ったのでしょうか?

西野 画像生成AIは、同じ文章を送っても、いい絵が出たり・出なかったりとガチャ要素があるので、他の翻訳サービスと違って「同じ文章が何度も送られてくる」という特徴があることに気づきました。

それまでは全部を翻訳していたんですけど、1回翻訳したものは翻訳しなくていいじゃん!ってことに気づいたので、10分の1ぐらいまでコストが下がりましたね。

――ものすごいコストダウンですね! ただ、ここまでたどり着くのがすごく大変だったんだなと感じました。

西野 めちゃくちゃ大変でした。僕は0から1のプロダクト開発がすごく好きなんですけど、リリース後のプロダクト修正の手順はモチベーションが下がってしまうんです。でも「お絵描きばりぐっどくん」に関しては、モチベーションが……なんて言っていられないレベルで頑張らないといけなかったですね。

――すごい反響でしたもんね。月額550円で「お絵描きばりぐっどくん」のプレミアムメンバーになると、枚数制限なしで絵を描けるようになりますよね。ここでは、どれほどの収益が得られているのでしょうか?

西野 コストカットをしなかったら、月に6000万ぐらいサーバー費にかかる予定だったので、コストカットがあってなんとかなった感じです。できていなかったら、おそらく赤字です。さすがに6000万は回収できないので……。

――西野さんの運用があってこそなんですね。友だち登録240万人超えの人気アプリになりましたが、ここまで話題になると予想していましたか?

西野 いや、全く予想していなかったです(笑)。僕は「お絵描きばりぐっどくん」が初めてのサービスリリースだったので、どんな感じで盛り上がるのかも想像がつかなくて、僕の感覚としては600人ぐらいが友達登録してくれたらいいなと思っていました。そしたら、いろいろなところで取り上げていただけて、一気に爆発したという感じですね。

――予想人数をはるかに上回りましたね!