漫才終わりで殴り合いの大ゲンカ

人間はそれぞれ育ってきた環境が違うし、考え方も人それぞれ。人と人が付き合うなかでのトラブルは、いつでも起こりうるものだ。それは芸人の世界でも同じで、普段は仲が良く過ごしていたとしても、トラブルに発展することも多い。

「あいつがこんな安いギャラで仕事ふってきて最悪な思いをした」
「ギャラは本当は10万だったのに、あいつが3万ピンハネしてた」

そんないざこざは日常茶飯事だった。

「金持ちの社長のパトロンを他の芸人に紹介したら、自分を通さず付き合い始めたから、あいつは不義理な奴だ」

こんな嫉妬からくるトラブルもよく目にした。

はたから見たらしょうもない揉めごとだろうが、本人にとっては生活もかかっているから死活問題。お金周りはクリーンにしておかないと、必ず揉め事に発展することを芸人人生で学んだ。

コンビ間のケンカも多い。結成当時は仲が良かったコンビでも、時間が経つと険悪になるケースをたくさん見てきた。本当は一緒にいたくないけど、仕事だから顔を合わせなくてはいけない。だから、ささいな一言がきっかけですぐにケンカになる。

「はい! どうもー!」と元気よく舞台に飛び出して行った漫才師が、「どうもありがとうございましたー!」と頭を下げて袖に履けてきた瞬間に、殴り合いのケンカを始めたのを見たこともある。長年積もりに積もった不満が、その日とうとう爆発したのだろう。

しかし、こうも思う。

「ケンカができるコンビは、お互いへの愛がある」のだと。

ケンカもしないし、そもそも目も合わさないようなコンビだっている。そんなコンビと楽屋が同じになった日はこちらも気を使う。

片方と喋っていると、もう一人は絶対に会話に入ってこないし、楽屋から出て行こうとする。その二人の仲の悪さは芸人のあいだでは常識となっているので、どちらにつくというわけにもいかない。

「俺はどちらの味方でもないです」というスタンスを、過剰なまでにアピールした立ち振る舞いを続けることになる。これが非常に疲れるのだ。

ライブが終わったあとの打ち上げも、仲が悪いコンビはもちろんバラバラだ。どちらの打ち上げに参加してもいいのだが「お前はどっちの味方なんだ?」と試されてるようで、毎回頭が痛くなったものだった……。