2022年9月、安全保障上重要な土地の利用を規制する「重要土地等調査規制法」が施行されました。じつは、そこに至る道のりが長かった理由として、中国による自衛隊や政治家に対する工作があったのです。長年にわたり極左問題を第一線で取材してきた福田博幸氏が、日本を蝕む「内なる敵=極左」と戦い続けてきた政府機関の真実に迫ります。

なぜ中国は自衛隊との交流に力を入れるのか

中国が狙っている自衛隊工作の目的と手法は、きわめて明白です。

退職高級将官を取り込むことによって、それに連なる現職自衛官の人脈を拡大し、退官後は「中国政経懇談会」(中政懇)の会員として獲得を図る。そして、彼らを仲介者として、さらに若手現職自衛官へと人脈を拡大し、親中感情を徐々に醸成する。そのためには、折あるごとに中政懇を通じて中国の意図する情報を流布し、対中警戒心の払拭を図り、最終的には親中的な防衛論争を引き起こそうというものです。

これは、究極的に現職自衛官のなかに中国に対する見方や対中防衛戦略をめぐって意見の対立を惹起させ、自衛隊員の分断を図ろうとしていることにほかなりません。

かつて米ソ対立時代、ソビエトの意向に沿って活動していた欧州の共産党は、国の安全保障や防衛体制にはじめから反対するのではなく、積極的に自国の安全保障や防衛問題に戦略論から介入し、米ソ戦略をめぐって自国内に戦略論争で対立を引き起こしました。

そして、究極的にソビエトの対米戦略をバックアップすべきだとする論戦闘争へと誘導し、戦術転換を図りました。このときは、時すでに遅く、ソビエトは経済的に疲弊し、連邦崩壊への道をたどりましたが、この戦術は、自由主義国家ではきわめて有効で、大きな価値を持っています。

中国共産党は、まさに自衛隊のなかにこの戦術を持ち込もうとしているのです。カウンター・インテリジェンスを実践する自衛隊の「情報保全隊」の役割は重大です。

中国共産党は以前から、ことあるごとに「日本軍国主義の復活」と批判してきましたが、その発言に反し、日本の実態を熟知しているのも中国共産党で「日本はすでにわれわれの手中にある」というのが本音でしょう。

自衛隊が完全にシビリアン・コントロールというより「シビリアン専制」の状況下にあり、かつ自衛隊が与党自民党国会議員や防衛庁のシビリアンによって、いかようにも操作できる組織であることを中国は見抜いているからです。中国が執拗なまでに自衛隊員との交流にこだわるのも、シビリアン専制に対する現場の不満を増幅させることによって、中国側が狙いとする“組織の分断”が可能となるからです。

▲なぜ中国は自衛隊との交流に力を入れるのか イメージ:J BOY / PIXTA

中国共産党の工作の最大の特徴のひとつは「招待工作」です。日本国内での工作では、取り締まり当局(警察)の摘発を受ける危険性があります。工作対象者を中国に招待し、中国国内であらゆる手段を駆使して工作を行い、招待を契機にして、対象者と日本国内で随時接触できる関係を構築する。同時に、中国招待期間に作為した弱点を使って協力させる切り札とすることができるというわけです。

中国招待期間中、参加自衛官に対し、親中感情を醸成する働きかけが繰り返し行われるとともに、人物評価や訪中間の言動の把握をはじめとする各種工作が行われたのは当然です。

情報保全隊の地道な成果がようやく実を結んだ

シビリアン専制の事例を挙げます。2006(平成18)年2月、航空自衛隊那覇基地司令が「中国は脅威である」と発言したことに、当時の額賀福志郎防衛庁長官が激怒し、基地司令の発言の真意をただし、処罰を命じました。

当時は2004(平成16)年11月、中国原子力潜水艦による領海侵犯が発生、前年の2003(平成15)年から中国空軍による日本の防衛識別圏内や排他的経済水域、領空近辺に異常接近する事態が急増し、スクランブル発進が頻発しました。

▲下総航空基地の対潜哨戒機P-3C 写真:Namazu-tron

1999(平成11)年以来、毎年、国防予算が二桁の伸びを示し、海・空軍の異常な強化を図っている中国共産党政権に対し、スクランブル任務を有し、部下を出動させる現場指揮官として、中国に“脅威”を感じるのは当然のことで、「脅威ではない」という防衛庁長官こそ異常です。日本の防衛を預かる政治家がここまで中国に工作されているという証左であり、これが日本の防衛現場の実態なのです。

このように、シビリアン専制のもとにあっては、日本の自衛隊がどんなに優秀であっても、与党政治家や防衛庁長官を抑えてさえいれば、いかようにも日本の安全保障に水を差すことは可能であり、中国はそのことを熟知しているのです。見抜いているうえで制服自衛官の中国招待に積極的なのは、シビリアン専制に対する自衛隊員現場の不満を増幅させる狙いがあるのです。

政府は2022(令和4)年9月16日、安全保障上重要な土地の利用を規制する「重要土地等調査規制法」の基本方針を閣議決定し、20日に全面施行されました。国防上、大きな前進といえますが、戦後77年間、防衛関係施設の機能を大きく阻害する土地や建物の規制について、シビリアン専制下で放置されてきたことを如実に物語っていることでもあります。政治家の怠慢以外の何ものでもありません。

この間、法的に整備されないなか、自衛隊施設の機能が阻害されないよう、周辺環境の調査や情報を黙々と収集してきたのも情報保全隊の仕事でした。太陽光発電やリゾート開発の名目で、中国系資本が自衛隊施設などの周辺で土地買収に関わったと見られる事例は約80カ所以上になります。

自衛隊の調査隊時代から情報保全隊時代を通じて、大きな懸念を抱きながら黙々と積み上げてきた努力が、ようやく法的に整備され、実を結んだことになります。

なお、規制対象となる「阻害行為」とは、自衛隊機の離着陸やレーダー運用の妨げとなる工作物の放置やレーザー光の照射、妨害電波の発射など7項目で「阻害行為」が確認された場合、総理が中止の勧告や命令を出すことができるとしています。

※本記事は、福田博幸:著『日本の赤い霧 極左労働組合の日本破壊工作』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。