上司は常に部下から見られている、そう思っていたほうが賢明です。リーダーがどういう人間であるか、その“心のありよう”は「ランチェスターの法則」によって、すぐにフォロワーに見抜かれてしまうのです。陸上自衛隊の幹部として現場でチームを指揮してきた小川清史氏が、ランチェスターの法則をもとにして解説します。

※本記事は、小川清史:著『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く 「作戦術」思考』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

リーダーの「言動」は部下に観察されている

リーダーは“心のありよう”についても注意を払う必要があります。

心は“見えないもの”だと思われているので、人はついつい手を抜きがちになってしまいます。しかし、人の心というのは、意外と目に見えてしまうものです。

穏やかな人か、妬みの強い人か、利己心の強い人か、思いやりのある人か、など、その人の心のありようは、目の光りや表情、ちょっとした仕草などに“形”として表れています。

▲リーダーの「言動」は部下に観察されている イメージ:mits / PIXTA

リーダーというのは、常にフォロワーから見られている存在です。フォロワーはリーダーが想像している以上にリーダーのことをよく観察しており、その心のありようを見抜いています。これは私の印象で述べているわけではありません。

「ランチェスターの法則」というものをご存じでしょうか?

戦闘による航空機の損耗、また人員や装備の減少を数理モデルで示した法則で、1914年にイギリスの技術者フレデリック・ランチェスターが発表しました。

この法則には、刀や槍などを使って真正面の敵しか攻撃できない前近代的な戦闘に関する「第一法則」と、銃・大砲・マシンガン・ミサイル・戦闘機などを用いて戦う近代的な戦闘に関する「第二法則」があります。

まずは要点を説明すると、同法則では、武器の性能が同じであれば、

第一法則:一対一の戦いが前提となる前近代的な戦闘では、兵力数の多いほうが単純に兵力差の分だけ有利になる。勝者側の兵力の損耗は敗者側の兵力の損耗数と等しくなる。

第二法則:兵器の発達により一対多が可能となった近代的な戦闘では、双方の兵力を二乗した兵力差の分だけ、(つまりは圧倒的に)兵力数の多いほうが有利になる。

とされています。ようするにどちらの場合も、質が同じであれば兵力数の多いほうが必ず勝利するわけです。

言葉だけの説明ではわかりにくいので、具体的な数字(できるだけ少ない数字)を使って説明します。

槍を持つ3人の味方部隊が、同じく槍を持つ1人の敵部隊と戦った場合、技量が同じであれば、味方部隊の1人が敵1人と相打ちとなり、味方の残りは2人となります。敵味方とも損耗する人数は同数であり、人数差の分だけ結果に差が出ます(第一法則)。

一方、武器が鉄砲の場合はどうでしょうか。射撃の技量は同じとして、味方は3人の小銃手、敵は1人の小銃手とします。銃は遠くまで撃てますので、敵の1人は味方側の小銃手3人に1発ずつ合計3発射撃して3人を倒そうとします。

小銃の性能が敵味方同じであれば、味方側の小銃手は敵が3発射撃するあいだに同じように3発ずつ、合計9発射撃が可能となります。敵の小銃弾は味方に対して各1発ずつしか向かってきません。それに対して、味方3人から敵1人に対する弾数は9発となります。1:9の差となります。つまり、人数の二乗に比例します(第二法則)。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、リーダーとフォロワーの関係においては、数の多いほうが圧倒的に有利な「第二法則」が成立します。なぜなら、視線や言葉は小銃弾と同じように全員に対して指向可能だからです。

ということは、リーダー1人に対してフォロワーが3人いれば、ランチェスターの第二法則により、リーダーからの声かけが3人にそれぞれ1回行われた場合、部下は合計で9回、リーダーの声かけや態度を観察することになります。

一方、リーダーから各部下に対してのやりとりは1回ずつにとどまります。つまり、リーダーは、フォロワーより9倍もその言動を観察される機会が多くなることになり、それだけフォロワーたちに心のありようを見抜かれやすくなるというわけです(そもそもフォロワーのリーダーに対する関心は高いと思いますが、ここではその関心度は同じとします)。

テレワークは「第一法則」が当てはまる?

あるいは、皆さんの子どもの頃を思い出していただけると、リーダーの心のありようが意外と見抜かれやすいということが感覚的にわかるかもしれません。

学校の先生の(人間性や考え方なども含めた)心のありようは、まだ幼い子どもたちであっても意外と的確に見抜いていたのではないでしょうか?

これもランチェスターの第二法則に基づけば、ある意味で当然の話です。

1クラス30人の教室を仮定すると、1対30は第二法則によりそれぞれ二乗されて1対900になります。つまり、1人の先生が30人の子どもたちをそれぞれ1回ずつ見ているあいだに、ランチェスターの第二法則により、子どもたちは合計900回も先生を見ている計算になるのです。

この圧倒的な観察回数の差に加えて、子どもたち同士が休み時間や登下校などを通じて先生についての情報を交換しており、さらには参観日に親御さんたちも先生についての情報交換を行っていると仮定すると、三乗に比例する「ランチェスターの第三法則(筆者造語)」が成立するのではないかと思えるほど、先生側と子ども側とでは情報量に圧倒的な差が生まれます。

だから、先生がどういう人間であるかは、すぐに子どもたちや親御さんたちに“見抜かれて”しまうわけです。

▲テレワークは「第一法則」が当てはまる? イメージ:すとらいぷ / PIXTA

リーダーとフォロワーの話に戻すと、一般的に組織というのはリーダーに相対して機能します。だから、あまり直属のフォロワーが増え過ぎると、組織としてうまく機能しにくくなるわけです。中間管理職が必要になるのはそういうときです。

ただ、現在ではオンライン会議などを有効活用すれば、リーダーは、より効果的なチームビルディングができるようになると思います。

私の見たところ、オンラインの環境下では、部下同士が孤立して横の連携がない状態になるので、リーダーとフォロワーがわりと1対1の状況になりやすいように思えます。これはランチェスターの第一法則に近い状態です。第二法則が成立しないということは、リーダーからすると、フォロワーの掌握や説得をしやすい環境だと言えます。

もちろん、今まで通り部下と直接会って人間的な感情を通い合わせておくことが大前提ですが、オンライン会議などのツールを使いこなしていくことは、これからの時代のリーダーにとって必須のスキルになるのではないでしょうか。