リーダーがなすべきことはチームの全体最適化。そのためには、部下はがんばってはいけないし、気を利かせてもいけない。かといって、サボってもいいという意味ではない。そして、上司は業務を遂行するにあたって、本来のキャパシティ以上の実力を求めるようなことをしてはいけない。陸上自衛隊の幹部として現場でチームを指揮してきた小川清史氏が、最小の努力で最高の成果をあげるメソッドを紹介します。

※本記事は、小川清史:著『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く 「作戦術」思考』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

全体最適達成のために“しないほうがいい”こと

よく聞かれるのが「どうすれば全体最適は達成できるのですか?」という質問です。もっともな疑問だとは思いますが、残念ながら「全体最適のためにはこれをすればいい」という決まったマニュアルやフォーマットはありません。

ただし、“これをすればいい”はなくても、“これはしないほう”がいいならあります。なかでも特に日本の組織にあてはまるのが「がんばってはいけない」と「気を利かせてはいけない」です。

▲全体最適達成のために“しないほうがいい”こと イメージ:kai / PIXTA

これまで私はリーダーとしてチームビルディングをする際、フォロワー(部下)に対して「がんばるな!」「気を利かせるな!」とたびたび言ってきました。

言葉の響きが誤解を生みそうですが、これは「サボってもいい」という意味ではありません。

「自分の能力の限界を超えるような仕事をしてはいけない。自分の役割以外の仕事(権限のない仕事)もしてはいけない。自分の能力と与えられた役割の範囲内でしっかりと仕事をしてくれ。その際には全体の方向性と自分の仕事とをマッチングさせよ」という意味合いです(そもそも、頑張ろうとすると肩に力が入り力んでしまい、パフォーマンスは低下します。リラックスこそがベストなパフォーマンスを生み出します)。

リーダーとして私がすべきことはチームの全体最適化であり、そのためにはフォロワーたちの能力と役割を十分に考慮しながら、戦略目標に到達するための戦力配分を考えなければなりません。

そうした戦力配分は、微妙なバランスの上に成り立っていることが多く、がんばって能力以上の仕事をしようとして無理をしたり、気を利かせて他人がやるべき仕事にも手を出したりするフォロワーが1人でも出てくると、全体最適が崩れてしまいかねないのです。

例えば、フォロワーの1人ががんばって能力のキャパシティオーバーのことをしてしまい、自分のやるべき仕事が破綻してしまった場合、どこかでその損失をリカバリーするための労力が必要となり、チーム全体に負担がかかってしまいます。

このような形でチームの全体最適が崩れるケースは、ビジネスの世界でもスポーツの世界でも日常的によく見かけます。

チームリーダーはファインプレーを求めていない

これも誤解されやすいのですが、「がんばるな」「気を利かせるな」と言っても、普段のトレーニングによって、がんばれる範囲や気を利かせられる範囲を広げておく(個別最適を高める)ことを否定しているわけではありません。

例えば、チームスポーツの場合、日頃の練習を通じて、個人のキャパシティを最大限に広げておくのは当然です。しかし、試合当日に本人のキャパシティ以上のことを期待してはいけません。

つまり、上司も部下自身も、業務を遂行するにあたっては、本来のキャパシティ以上の実力を求めるようなことをしてはいけない、ということです。イチかバチかの博打的な偶然のがんばりをチーム員に課してはいけない、ということを述べているのです。

自主積極的に動いて戦術を展開していく「ミッションコマンド型」の組織のメンバーには、戦略と、自分の権限と、自分ができる能力的なキャパシティの範囲内で、自主積極的に業務を遂行することが求められます。

2022年ワールドカップの日本対スペイン戦における、いわゆる「三苫の1ミリ」による得点にしても、日本代表の運動能力の範囲内のプレーだったと思います。マグレとはとても見えない見事なラストパスであり、そこにタイミングよく走り込んできた選手との完璧なまでの組織プレーであると私には映りました。

つまり、彼らの能力のキャパシティを超えて「がんばった」結果ではなく、彼らが本来持っている実力を発揮した結果だった、と私には思われるのです。

つまり、日本代表は、自らの能力の限界を超えた「ファインプレー」でドイツやスペインという強豪に勝ったわけではなくて、彼らが日頃の練習で鍛えていた能力を発揮した結果による必然の勝利だと思います。

チームプレーでは、個人に能力以上のがんばりをさせてしまうとミスを誘発してしまいます。場合によっては、それですべてが台なしになってしまうこともあるでしょう。

スポーツの世界では「いいチームやうまい選手ほどファインプレーが少ない」とよく言われますが、その通りだと思います。

ファインプレーは、確かに見た目は派手ですが、選手たちの動きをよく見ると、実は想定外の事態に対処せざるを得ない状況だったり、能力(攻撃・守備範囲)を超えたことをせざるを得ない状況に追い込まれていたりしている場面でのプレーであると思います。

▲チームリーダーはファインプレーを求めていない イメージ:alexkravtsov / PIXTA

そもそも本来は「自分の能力を超えていたけど、偶然うまくいった」という状況をつくってはいけないのです。それは一種のギャンブルのようなものなので、次回も同じような状況下でうまくいくとは限りません。

また、自分でどうしてうまくできたのかがわからないようでは、今後の成長にもつながりません。チーム員が再現できる能力を身に付けてくれていることで、リーダーはそれを計算に入れてチームリーディングができますが、再現できないファインプレーは偶然の産物であり、リーダーにとっては計算に組み込むことはできないのです。

あくまでも能力の範囲内で、能力を引き出して全体最適を達成できるチームをつくらないと、再現性がなく、継続した成長も見込めないのです。