昇進をキッカケに自動的にリーダーシップのスキルを身に付けることはできません。自分が部下として働いているときから、上司の立場にいたらどうするか? を考えておくことが大事です、陸上自衛隊の幹部として現場でチームを指揮してきた小川清史氏が、自身の経験をもとにリーダーシップをトレーニングする方法について紹介します。

※本記事は、小川清史:著『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く 「作戦術」思考』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

いつでも誰でもリーダーになれる組織づくり

言うまでもないことですが、理想のチーム(全体最適が達成されるチーム)が実現できるかどうかは、リーダーのものの考え方や振る舞い、すなわちリーダーシップの発揮の仕方にも左右されます。

「自分はリーダーという柄じゃないから、別にリーダーシップを学ぶ必要なんてないよ」と思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。リーダーシップを学ぶことは良きフォロワーシップ(チームの全体最適化に寄与する、自主積極的なリーダーへの働きかけや支援)を学ぶことにもつながります。

また、たとえ今はリーダーの立場にいなくても、チームや組織で活動していると、状況次第で何かしらのリーダーシップを発揮する機会がめぐってくることはよくあります。

そもそもリーダーシップとは、リーダーにだけ求められるものではなく、組織の全員が持つべきもので、組織員をお互いに前向きに気持ちよく動かす動力源のことなのです。同僚同士を動かす、場合によっては部下が上司を動かすこともあります。これもリーダーシップなのです。ポストの威力を使って人を動かすこととは別次元の概念にあるのがリーダーシップなのです。

ミッションコマンド型の組織は、従来の日本型の組織のように、一握りの優れた個人が暗黙知(勘と経験)で組織全体を動かすような形態ではありません。一人ひとりが“考える細胞”となり、自主積極的に行動して全体最適を達成していくという形態です。

そのようなミッションコマンドが有効に機能するには、リーダーがフォロワーの業務内容を十分に把握するとともに、フォロワー側もリーダーの意図を十分に理解して業務を遂行する必要があります。ひいては、チーム内の誰もが、いつ何時でもリーダーの代わりを務められるような準備(教育)も普段からなされているべきだと思います。

▲いつでも誰でもリーダーになれる組織づくり イメージ:EKAKI / PIXTA 

実際、私も指揮官になる前のフォロワーだった頃、上司の指揮官(リーダー)たちの仕事を「自分があの立場にいたらどうするか」という視点で観察し続けていました。そうして常に頭のなかで「指揮官になったときの自分」の仕事をシミュレーションしていたわけです。

その結果、自分なりの仕事の“引き出し”を充実させることができたので、いざ指揮官になってからも、あわてることなく対応できた場面が多かったという実感があります。

フォロワーの時期からリーダーシップについて学んでおくことを、私自身の経験からも強くお勧めします。上司の立場に自分をおいて学ぶやり方は、現実のケーススタディなので、結果も確認できます。

リーダーとは違う決断をしていた場合は結果を確認できませんが、その場合には頭のなかで結果にいたるシミュレーションを行いますので、シミュレーション能力も養うことができると思います。タダでできる格好のケーススタディではないでしょうか。

「リーダーとは何か?」を考えるキッカケ

リーダーというものに関して、もう少し個人的な体験を述べさせてください。

高校を卒業後、18歳で防衛大学校に入校してからというもの、私(と同級生たち)は、ことあるごとに教官の方々から異口同音にこう言われ続けてきました。

「君たちは将来、幹部自衛官となり、指揮官となる。指揮官としての素養をしっかりと身に付けなさい」

高校時代には、“指揮官”という言葉を日常で耳にする機会もなく、「指揮官とは何か?」など考えたこともありません。指揮官よりは耳なじみのあった“リーダー”と言い換えてもそれは同じです。「リーダーとは何か?」など、防衛大学校に入学する前の私は、考えたこともありませんでした。

「リーダーとは何をする者なのか?」

これが防衛大学校で学ぶにあたって、最優先で考えるべき自分の課題となりました。1年生の頃には、分隊行進訓練で列員になったり、号令をかける分隊長をやらせてもらったりしました。ちなみに、この訓練は民間企業の方々が自衛隊に体験入隊された際、必ず行っていただく定番訓練です。

▲自衛官候補生10km行進訓練(第普通科連隊・久居) 写真:陸上自衛隊HPフォトギャラリー

陸上自衛隊の分隊長というのは、10名程度の小部隊のリーダーであり、この訓練では「右へならえ」「右向け右」「前へ進め」「右に向きを変え進め」「縦隊右へ進め」「足踏み進め」「分隊止まれ」などの号令をかけて、分隊を動かします。

初めて分隊長をやらせてもらったとき、私は「リーダーっていうのは号令をかける係なのか。リーダー自身はあまり動かなくてもよいから、意外と楽な仕事だな」と浅はかにも思っていました。

特に強制しなくても、分隊のみんなは私の号令通りに動いてくれます。そのため、「リーダーには強烈な強制力が必要だとイメージしていたけど、そうでもないんだな」とも思ってしまいました。