仕事などでアイデアを生み出すのに、特別な感性や先天的な才能を持ち合わせているかどうかは問題ではありません。金沢工業大学大学院(虎ノ門キャンパス)でマネジメント論を教えている元海将・伊藤俊幸氏が、呉地方総監のときにアイデアを出し、今も続いている「呉海自カレー」を例にして、“参謀”としてアイデアを生み出すコツを伝授します。

※本記事は、伊藤俊幸:著『参謀の教科書 才能はいらない。あなたにもできる会社も上司も動かす仕事術』(双葉社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

問題意識をもつことでアイデアは生まれる

参謀とは、上からの命令通り「リーダー(上司)の手足」となって働く部下ではなく、上からの命令の“意図”を汲み取り「リーダーの手足+もうひとつの脳」となって働く部下のことを言います。いま多くの日本企業では、この“参謀”にあたる人材が不足しています。

優れた参謀になるために欠かせないスキルのひとつが提案力です。

「提案力」という言葉から「独創的なアイデアを生む力」をイメージする方もいるでしょう。リーダーが思いつかないアイデアを生み出すことも参謀の大きな役割です。

では、アイデアはどうやって生まれるのでしょうか?

「アイデアを生む力は感性の問題であり、先天的なものだ」だと思っている人が多いかもしれません。しかし、私はアイデアを生む力は「問題意識を強くもっているかどうか」で決まると思っています。

問題意識を強くもっている人は現状で満足しません。解決方法や改善方法をいつも考えることになります。日ごろ情報のシャワーを浴びるときも、無意識のうちにアンテナが立っている。すると、ある日突然、ある事象+ある事象が頭の中で組み合され、視界がパッと開ける――そうして生まれるものがアイデアだと思うのです。

たとえば、ビットコインは「なぜ通貨は中央集権的に管理されないといけないんだ」という問題意識をもった人物が、インターネット技術を組み合わせて生み出した、まったく新しいお金のアイデアです。

アマゾンは「リアルな書店ではニッチな本が買いづらい」という問題意識をもった人物が、こちらもインターネット技術を組み合わせて生み出した、まったく新しいビジネスのアイデアです。世の中でアイデアマンと呼ばれる人たちも、誰よりも問題意識が強いのだと思います。

横須賀市も呉市も軍港の街として同じなのに・・・

私の例で恐縮ですが、呉地方総監のときにアイデアを出し、今も続いている「呉海自カレー」という呉市観光課の事業があります。

▲呉市 写真:tachan / PIXTA

海上自衛隊の艦艇は、各艦独自のカレーのレシピがありますが、そのレシピをそれぞれの艦の調理員が呉市内の飲食店に教え、当該艦長と調理員長が試食。そこでOKが出たお店に行けば、一般のお客さんもそれが食べられるというものです。

2022年秋時点で提供店は20店舗。呉市の観光事業として実施されており、シールラリーも行なっています。海上自衛隊のPR、呉市民と呉地方隊との交流促進、呉市への経済貢献など、一石三鳥の施策と言えるものになったと自負しています。

このアイデアは、当時の私のなかにあった2つの問題意識から生まれました。

ひとつは呉市民と隊の交流です。私は横須賀市での勤務経験もあるのですが、横須賀では市と海自(および米軍)の関係が密接です。毎年10月に開催される「よこすかみこしパレード」では、市長と横須賀地方総監が観閲官となり、みこしや山車のパレードが行なわれ、自衛隊も参加します。その日は米軍基地も一部開放され、市民と基地の交流の場にもなるのです。

▲よこすかみこしパレード(平成30年10月28日) 写真:防衛省ホームページ

横須賀市も呉市も軍港として同じ長い歴史があるため、海自を応援してくださる方が大勢います。それにもかかわらず、呉市では市民と隊員の接点がほぼなかったのです。地元のお祭りにも自衛隊は参加していませんでした。呉地方総監になったからには、その状況をどうにかしたいという思いがあったのです。