積極的に仕事に取り組もうとして上司にいろいろ提案するけれど、まったく採用してもらえない……。そんな経験はないでしょうか? もしかすると、それは推論力が足りないからかもしれません。日本全国の企業で人材育成や組織運営の指導・講演を行なっている伊藤俊幸氏が、提案を通すためのコツを伝授します。
※本記事は、伊藤俊幸:著『参謀の教科書 才能はいらない。あなたにもできる会社も上司も動かす仕事術』(双葉社:刊)より一部を抜粋編集したものです。
提案を通すために「推論力」を高める
皆さんは仕事をしていて、こんな悩みを持ったことはないでしょうか?
- 提案が通らない
- 伝えたいことが伝わらない
- 表面的な分析しかできない
一見するとバラバラな悩みに見えますが、これらはすべてひとつのスキルがあれば解決します。
そのスキルとは推論力です。
推論力は極めて重要です。推論力とは“未知の事柄”に対して筋道を立てて推論し、論理的に妥当な結論を導き出す力のことをいいます。
提案が通らないのは、相手の期待や反応が推論できないからです。伝えたいことが伝わらないのは、相手の聞きたいことや理解できることが推論できないからです。表面的な分析しかできないのは、奥深くにある関係性に推論が働かないからです。それゆえ、推論力は極めて重要な力だと私は考えているのです。
では、推論力の正体とは何かというと、次の3つの思考法の合わせ技です。
- 帰納法(インダクション):複数の事実から法則を見出し、結論を推論する
- 演繹法(デダクション):既知の法則に事実をあてはめ結論を推論する
- アブダクション(仮説的推論):起こった現象に対して既知の法則をあてはめ仮説を推論する
思考のプロセスが違うだけで、いずれも何かを推論する行為です。これら3つの推論法を意識的に鍛えていくことによって、推論力は高まっていくものです。それぞれのコツを簡単に紹介します。
さまざまなことに意識を向け観察する
帰納法で難しいのは、共通点や法則を見出すことだと思われがちですが、実際にはサンプルデータ(事実)が多いほど共通点が見出しやすくなるわけですから、コツはずばり、常日頃から物事をしっかり観察することです。
たとえば、釣りの達人は決してのんびり釣り糸を垂れているわけではなく、水の色や透明度・流れ・小魚の動きや泳層・潮の高さ・風向きなどの環境要因を忙しく観察しています。結果的に人よりもサンプルデータが増え「このパターンのときは、こうやれば釣れる」という推論ができるのです。
電車に乗るときも、会議に出席するときも、できるだけボーっとやりすごさず、さまざまなことに意識を向けて観察してみましょう。変化や比較に敏感になることで観察力は上がります。
さらに、これらの観察から自分なりの方程式を導くとよいでしょう。これは特別なことをするのではなく、「〇〇という行動をする人は、△△な人だ」「〇〇の兆候があると△△になってしまうんだ」といった具合に記憶するのです。
記憶はインプットではなく、アウトプットによって定着しますから、一度口に出して人に話すとよいと思います。帰納法によって多くの一般化した法則を身に付けると、人から「洞察力のある人」と評価されることになるでしょう。