「横須賀海軍カレー」での大失敗

もうひとつは、横須賀市で実施されていた横須賀海軍カレー事業でした。ブランディングという点では天才的なアイデアで、横須賀市の町おこしに今も貢献しています。しかし、その「横須賀海軍カレー」がきっかけで、海上自衛隊はイベントで大失敗をしたのです。

海軍カレーが人気を博していたので、海上自衛隊は部隊が行なう市民向けのサービスとして、10隻ほどの艦艇を横須賀に集め、基地を開放しカレーを提供するというイベントを企画しました。

しかし、1万人の来場者を想定していたところに4万人が集まってしまいました。その結果、基地から横須賀市の中心部まで大行列ができた挙句 、あっという間に品切れとなり、方々から批判の声が上がりました。

海自がよかれと思ってやったことなのに来場者は不満だらけ。不慣れなイベント運営で隊員たちも疲弊し、地元警察も大慌てです。地方総監も防衛省や幕僚監部から注意を受けることになりました。

つまり、誰も得しなかったのです。そのとき私は「海自のPRも大事だし、カレーを食べてもらうこともいいアイデアだけど、こんなイベントまでわざわざ自衛隊自らやる必要があるのか?」と思ったのです。

▲横須賀市 写真:yama1221 / PIXTA

この2つの問題意識が組み合わさって生まれたのが「呉海自カレー」です。

さっそく、地元の呉市長と会食した際にお話をして、具体的な企画は動き出しました。とはいえ、自衛隊がやることは各艦の調理員をお店に派遣して作り方を教えること。それと、できたものを艦長と調理員長で食べて認定を出すこと。一度きりなのでたいした手間はかかりません。

一方の飲食店は、観光客に訴求しやすいメニューが一品増えることになりますし、海自艦艇ののぼりを掲げていたら、現役の隊員たちも入りやすくなるでしょう。そして、市としては「戦艦大和が生まれた町」「海軍の町」に加え、新たな観光の目玉としてブランディングがしやすくなったわけです。

世の中には柔軟な発想ができる人はたくさんいるはずです。もしくは理知的に考えられる人もたくさんいます。しかし、そうした脳のスキルを活かせるかどうかも、結局は強い思い次第。どんな問題意識をもっているかだと感じます。