インタビュー中に突然の腹パンチ
違うロケでは、メキシコにも行かせてもらった。
街中でインタビューロケだったので、通りすがりのテンガロンハットを被った大柄な50代くらいの男性に声をかけた。最初は笑顔で対応してくれていたおじさんだが、通訳を通して話を聞いているうち、何か気に障ったのか、だんだん顔が曇ってきて、次の瞬間、私のお腹を急に殴った。
びっくりした。
「おーーーー! 急に何ーー!」
すかさずリアクションした。痛がりながらも(実際にけっこう痛かったのだが)、その男性の近くから離れることはなかった。
なぜなら、その状況を「おいしい」と思ってしまったのだ。街角で見ず知らずのおっさんから殴られるなんて滅多にあることではない。私の心境を察したスタッフさんたちも笑っていた。
(もう1発くらい殴ってくれないかな……)
懲りずに話しかけようとした瞬間、遠くにいたコーディネーターがすごい勢いで飛んできた。コーディネーターとは、現地でロケなどの手配をしてくれる人のことだ。このときのコーディネーターは、現地に住む60歳くらいの日本人男性だった。
「おい、やめろ!!」
ロケで1日中、一緒にいたコーディネーターは、それまで見せたことない緊迫感を表情に乗せて、私に近づいてきた。そして、私の胸ぐらをぐっと掴み、顔を寄せて小声で言った。
「あの人はこの辺で有名なマフィアだ。マジで殺されるぞ、お前」
いま思うとゾッとする話なんだけど、当時の私は正直なところ「いいやん」と思ってしまった。「万が一でも撃たれたら、めっちゃニュースなるやんとも思った。ロケへのプレッシャーが高まりすぎたあまり、めちゃくちゃ変な思考回路になっていたのだろう。
おそらく、そのときの私は失敗続きのロケを挽回したいがために、正常な判断ができなくなっていたのだ。コーディネーターに先導され、そそくさとその男性から離れるロケ隊。私はひきずられるようにして、その場を離れた。しばらくして、恐怖がやってきた。その後、どうやってロケを終えたのか全く記憶がない。
たまに思い出す。あの無惨なロケの日々を。いろんな人に迷惑をかけてしまったことを思い出し、真夜中に叫びたくなる。
ほぼ皆、忘れているのだろうけど。
いつの日か、もう一度だけでいいから、海外ロケに行きたい。あのときの失敗を少しでも取り戻したいのだ。
(構成:キンマサタカ)