おはようございますこんにちはこんばんは、番組プロデューサーのTPこと高橋です。「M-1グランプリ2025」の準決勝が12月4日に行われ、今年のファイナリスト9組が決定しました。かなりありがたいことに、僕は昨年に引き続き、この連載を持っているため「記者」として会場で準決勝を見届けさせてもらうことができました。
実体はただのお笑いファンなので、少しの罪悪感を抱えながらも……ワニブックスさんありがとう。一生懸命記事を書いて恩返しします。
漫才師にとっては完全に向かい風
会場は例年と同じ竹芝の「NEW PIER HALL」。M-1以外ではまず行くことがない場所。海沿いだから行きも帰りも風が強くてとても寒い。「今年は会場にどんな風が吹くのだろう」…そんなことを考えながら会場へ向かった。
僕は「記者席」で見させてもらったのだが、記者席は前方ブロックの左右端。偏見なく正面で観たいという気持ちを無視するように、舞台はまあまあ斜めに見える席だが、見られるだけで充分ありがたい。こっそり伝えておくと、上手側(ステージ向かって右)が神席だ。準決勝は下手から登場して上手に退場していくため、上手側に座っていると、サンパチマイクに向かう顔、ネタ終わりで袖に戻っていく顔、その両方が見られる。「いってきます」と「ただいま」が見られるまるで保護者席。記者のみなさん来年以降の参考にどうぞ。
今年準決勝の会場で1番感じたのは、とにかく空気が重かったこと。漫才師にとっては完全に向かい風だと思った。例年、温まりきらないAブロックに吹く冷たい風が、最終ブロックまで途切れず続いた印象だ。そのせいか、毎年議論になる「出番順による不公平さ」は今年はほぼ存在しなかった。
Aブロックではめぞんが拍手笑いを複数回取り、この日最初の爆発を起こした。しかしその後、めぞんを超える爆風を吹かせるコンビがなかなか出てこなかった。(つまりめぞんめちゃくちゃすごかった)
満場一致の拍手笑いは本当に少なかった。準々決勝では爆発していたくだりが「0笑い」になる場面が何度もあった。ウケすぎて龍や虎が出てくることもなかった。最近また2021年準決勝のランジャタイについて「ウケすぎて看板が落ちた」という話が蒸し返されて話題になっていたが、現地にいた人間からすると、あの日のランジャタイは、あながちその逸話がウソじゃないくらいウケていた。少なくともNEW PIER HALLでの最大瞬間風速だと思った。それに比べると今年は落ち着いた準決勝となった。
僕が記者席にいたというのもあるが、僕しか笑っていない瞬間があって恥ずかしかった。全体的に“しょうもないボケ”への空気が厳しく感じた。
近くに座っていたお笑い大好きアイドル・新居歩美さんしか笑っていない瞬間もあった。「この人、信用できるな」とシンプルに思った。
拍手笑いを何回も取っていた3組
そして、空気が重たく笑い待ちをする時間がなかったせいか、4分30秒を超えてタイムオーバーする組はもちろん、4分15秒の警告音すら1回も鳴らなかった。せっかくはりけ〜んず新井さんがオープニングで「こうなります!」って紹介してたのに。
全組ウケすぎて誰が合格するかまったくわからない年もあれば、今年は、真空ジェシカ、エバース、たくろうの3組以外はかなりの大混戦だった。この3組はそんな中でも拍手笑いを何回も取って、会場中が会場全体が「これは行ったな」という風向きに変わった。
さらに今年強烈に感じたのが「漫才のバリエーションの多さ」だ。コント漫才、しゃべくり漫才はもちろん、演説、キャラ、言葉遊び、ストーリー、リズム、喧嘩…、多種多様な漫才を見ることができた。これは、漫才師たちが日々ネタを磨いて、多様性を進化させてきた成果なのはもちろん、昨今の準決勝進出者は地上波でネタが放送されることが確定していることも影響しているのかなと思った。いくらウケていたって種類が同じだと通らないのか、と。そう考えると、準々決勝でウケていたのに準決勝で敗退したコンビにも納得がいく。来年どうなるかは知らないが、良いとも悪いとも言い切れない。


高橋 雄作