もうすぐジメジメとした梅雨が明けるとはいえ、旅行やイベントなどを予定している夏休みを前に体調を崩してしまっては元も子もありません。病院に行くほどではないけれど、ちょっとしたこころの不調に悩まされている人へ。SNSで人気の漢方アドバイザー・タクヤ先生こと杉山卓也氏が、中医学の視点から、こころをいたわり健康に暮らすための過ごし方を紹介してくれました。

※本記事は、杉山卓也:著『タクヤ先生、漢方でこころを元気にする方法、教えてください!』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

こころと体に溜まるジメジメを追い出そう

中医学では、夏と秋の間に「長夏(ちょうか)」という時期があると考えます。中国では、長夏は夏~初秋の頃で“むし暑い”時期。

日本では「梅雨」がこの時期に当たります。湿度が高く蒸し暑い長夏に、最も影響を受けやすい五臓は「(ひ)」です。

脾は、胃が飲食物から体の気血(きけつ:エネルギーや血液)といった重要な栄養素を作ったり、水分の代謝をコントロールをする消化器系の支配を行っている臓腑です。

この脾は湿気に弱いという特徴があるため、湿度の高い長夏は脾の働きを低下させ、水分の停滞を招くことで、だるさやめまい、耳鳴り、むくみなどを生じさせます。さらに、食欲不振や消化機能が落ちることで肥満につながったり、継続的な下痢を起こしたりと、さまざまな失調をもたらします。

加えて、脾の働きが低下すると気力が萎えてしまい、何もしたくなくなるような無気力症や、うつ症状などが起こりやすくなることも。

実際、曇りや雨の日が多く、日照時間が低下する日本の長夏は、うつを起こしやすい季節とされています。ただでさえだるさが出やすい時期に無気力になるわけですから、こころの健康に大きな障害を起こすことは間違いありません。

長夏の養生については「利湿健脾(りしつけんぴ)」という言葉があります。これは、脾の機能を改善し元気に保つことで、体に停滞する水分の代謝も促すという養生法のこと。具体的には、以下のようなものになります。

  • 適度な運動や入浴で、気持ちよく発汗をする
  • 冷たいもの、甘いもの、生もの、消化によくないもの(脂分など)を控える
  • 胃腸に優しい食べ物を食べる(イモ類、とうもろこし、きゃべつ、にんじん、大根、たまねぎ、鶏肉、アジ、サバなど)
  • 体の余剰な水分を排泄しやすくなる食べ物を食べる(ハトムギ、春雨、夏野菜など)

ちなみに、水分の代謝を高めながら胃腸を元気にするためには「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」などの漢方薬がオススメです。

脾には「思い詰めたり、悩みすぎると働きを悪くする」という中医学の考えかたがありますので、長夏の時期にはこれらの養生を行いつつ、思い詰めることのないように、自分の好きな活動をするなど、気持ちを高めるようにこころがけるとよいでしょう。

▲こころと体に溜まるジメジメを追い出そう イメージ:Graphs / PIXTA

湿っぽい長夏の時期は、こころまでジメジメとしてしまいがち。

だからこそ、自分の気持ちが晴れやかになることを積極的に探して、気持ちだけは雨空に負けないように努めることが大切です。

消耗しがちな夏は旬の食材で補給する

夏は「(しん)」の臓腑(ぞうふ)に影響が起きやすい時期です。

「心」という臓腑は、全身にくまなく血液を送るポンプとしての「心臓」という臓器の働きを指す一方で、その言葉通り、メンタルを指す「こころ」という意味もあります。つまり、精神活動をコントロールする部位でもあるんです。

具体的に言いますと、中医学では意識・記憶・思考・集中などといった精神活動の働きは、心の機能によって保たれていると考えます。

こころに失調が起こると、動悸や息切れといった心臓系の症状、不安感や焦燥感、記憶や集中力に支障をきたすといった症状が生じます。

全身を巡る血液は、内臓や皮膚といった部位に栄養を運び、活動させたり潤わせたりする働きを担いつつ、同時に精神活動を安定させるための栄養を脳に運ぶと考えられています。東洋医学では、これを「心血(しんけつ)」と呼びます。

夏の暑さによって「心」のエネルギーが消耗し、心のエネルギーである「心気(しんき)」が不足することで、前述したような不調が次々と現れるようになります。

夏の時期の生活養生として、こころがけしたたほうがよいものとしては、発汗による気(エネルギー)と陰(潤い・体液)の欠乏を防ぐための、適度な水分摂取です。

ただ、ここで注意しなくてはいけないのは、冷たく糖分の多い水分を多量に摂ると、胃腸への負担が大きく、結果として胃腸機能が低下し、逆に消耗してしまうということ。内臓の失調は巡り巡って「こころの失調」を呼ぶことにもつながっていきますから、くれぐれも注意が必要です。

発汗による消耗、暑さによる夏バテ、多量の水分摂取によるむくみといった、夏の体の不調改善には、夏の食べ物が役に立つでしょう。

なぜなら、キュウリ、ナス、トマトなどの夏野菜は体の余剰な熱を取り、消耗した潤いを補い、体に溜まった余剰な水分を利尿作用で排泄する手伝いをしてくれるからです。食べすぎには注意しつつ、バランスよく旬の食材を食卓に並べておくことがポイントです。

▲消耗しがちな夏は旬の食材で補給する イメージ:よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA

また、中国には「心静自然涼(しんせいしぜんりょう)」ということわざがあります。

「夏の暑さにイライラすると、よけいに暑くなるだけ。ゆったりとした気持ちでいれば、涼やかに過ごすことができる」という教えなのですが、これも、こころの健康を保つためにとても大事な考え方ではないでしょうか。

暑さによる心気の消耗を補充する漢方薬としては「生脈散(しょうみゃくさん)」や「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」などが活躍します。これらは同時に夏バテ、熱中症の予防にも効果がありますので、夏の時期には非常に重宝される漢方薬です。

元気で開放的な夏の陽気を前向きに取り入れつつ、暑さや夏バテによるストレスを感じないように、様々な養生を取り入れていきましょう。

こころも体も健やかに、イベント盛りだくさんの楽しい夏を元気に乗り切ってくださいね。