ちょっとしたことでもネチネチ小言を言ってくる人……まともに相手をしてしまうと、振り回されて心が疲れてしまいますよね。でも、それが家族になると対応に悩んでしまいます。カウンセリングのプロで、数多くの著書を出している大嶋信頼氏が、夫婦関係がうまくいくためのコツを教えてくれました。

※本記事は、大嶋信頼:著『スルースキル』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

怒ってばかりの妻に反発してしまう夫

ある男性は、奥さんから「なんでもっと、ちゃんと私の話を聞いてくれないの!」と小言を言われて「仕事で疲れているんだから、こっちの身にもなれよ!」と言ってしまったそうです。

これを言ってしまったとき、大きな地響きが鳴って、二人のあいだに大きな溝ができた、というのはわかるものの……わかっちゃいるけどやめられない! という夫婦は少なくないのではないでしょうか。

その奥さんは「あなたは外で好き勝手なことをやって、家事とかを私に押しつけて、ちょっとは私の身にもなってよ!」と返してきます。

それに対して「お前だって、家で好き勝手なことをやっているじゃないか! 外で稼いできているのは俺なんだぞ!」と言ってしまったときは、心の中で“しまった! 言ってはいけないことを言ってしまった!”とも思っているはずです。

でも、売り言葉に買い言葉になって、自分ではどうすることもできなくなってしまうのです。

この男性には、奥さんの小言をまともに聞いてしまったらエスカレートするという感覚があるから、なんとか奥さんの小言を打ち消して黙らせなければ……と思ってしまうのでしょう。

この「エスカレートする(どんどん要求が高くなっていく)」というのは正解です。人の気持ちはわからない、そして自分の気持ちすらわからない、ということはよくあります。

奥さんのなかでは“何かが不快!”と思っているのですが、その「不快」の原因がわからないまま、もしかして話をちゃんと聞いてくれないからなのかな? と、じつは当てずっぽうで言っているだけ。

▲じつは不満の原因は自分でもわかっていないことが多い イメージ:Ushico / PIXTA

だから、仮に「だったら話をちゃんと聞くよ!」と男性が一生懸命に努力したところで、そこからどんどん男性に対する不満が数珠つなぎ式に出てきてしまうことを、男性はなんとなく感じています。

でも、同時に男性は、奥さんの不満に対して対処しなければ、雪だるま式にどんどん不満が膨れ上がって「将来、大変なことになる!」ということも、なんとなくわかっているんです。

とはいえ、それが男性の能力でできるような気がしません。ただでさえ、職場に行けば仕事の人間関係で気を遣って疲れて帰ってきているのに、家でも妻に対して気を遣って、相手の不満や不安を解消するために努力するなんて、正直なところ体力的に厳しいでしょう。

また、女性の気持ちを察するような繊細さは自分にはない、とも思っています。その繊細さがあったら、もっと会社で成功しているし、こんな甲斐性(かいしょう)のない生活はしていないはず、ということもなんとなく知っているんです。

「奥さんの不満や不安を解消してあげられる繊細さがない」というのも正解で、さらに「その繊細さがあったら、もっと成功しているのに!」というのも大正解だったりするんです。

ここに大きなヒントがあります。なぜ、会社で疲れて帰ってきて、家に帰ったら、奥さんに対応するエネルギーがないのか――男性は「繊細さがあったら、もっと仕事でも成功している」と考えていました。この「繊細さ」というのは漠然としたイメージになりますが、裏を返してみると「女性性(女子力)」なんです。

男性が職場にいるときは「男性性(男の世界)」で仕事をやっている、と思っています。その男性性を職場で発揮して、クタクタに疲れて家に帰ってきて、奥さんから、自分の専門外である女性性(女子力)を発揮しろと言われたって無理、ということが背景にあるんです。

男性だから、男性性を発揮して職場で戦って、疲れて帰ってくる、ということを繰り返しています。

奥さんの小言は「女子力の供給源」

同時に、奥さんの話に対応できる女性性(女子力)を男性性と一緒に兼ね備えていたら成功できる! という感覚もあります。

奥さんから女子力を吸収してしまえば、仕事の能力が格段に上がるのかも、という可能性があるんです。だったら、奥さんの小言は「女子力の供給源」としてスルーしていきましょう。何を言われても、女子力アップで仕事が楽になる! と思いながら聞いていると、なんだか奥さんの話が興味深く聞けるようになった、と変わっていきます。

それまでは、働き続けるために自分の男性性を守らなきゃ! と自分の男性性を揺るがす奥さんの話を拒否してきました。

でも、女性性を自分のなかに取り入れたら仕事で成功できるかも、と思って、興味を持って聞き続けていたら「あれ? 仕事から帰ってきても疲れなくなった!」となるから面白い。

あんなに家に帰ってきたら、なんにもできないと思っていたのに、なんか趣味でも始めちゃおうかなと思うぐらい余力が残っています。

奥さんの話を、女子力アップのためと思いながら聞いていると、“女性ってそんなふうに考えるんだ”とだんだん仕組みがわかってきて、さらに奥さんの話に興味が持ててきます。

すると「あれ? 仕事でどんどんアイディアが湧いてくる!」と、頭が以前よりもシャープになっている自分がそこにいてびっくり。

以前は、一生懸命に仕事をやっていても誰からも認められなかったのに、奥さんの話で女子力アップしたら、周囲の眼差しが尊敬に変わっているから面白い。

▲奥さんの話を聞くようになると周囲の眼差しが変わってくる イメージ:Ushico / PIXTA 

奥さんに対して、あんたの話に対応できるんだったら、もっと出世しているはず! と思っていた男性の考えが、“本当だったんだ!”となるから興味深いんです。

奥さんの小言は「女子力アップで能力アップ!」と思いながらスルーしていくと、想像以上に面白いことが起きますよ。