近年、エンタメ界で新たなジャンルとして人気を集めるBL(ボーイズラブ)作品。しかし、BLはここ数年で新たに生まれたものではなく、 日本の古典文学に脈々と受け継がれてきた歴史があるという。

そんな新たな解釈を古典文学や史学から読み解いたのが『ヤバいBL日本史』(祥伝社新書)。その著者である大塚ひかり氏に、執筆のきっかけや古典文学の魅力についてニュースクランチ編集部がインタビューで聞いた。

▲大塚ひかり【Crunch-book-intervieW】

『源氏物語』に感じたBL要素

――『ヤバいBL日本史』、面白く読ませていただきました。なぜ、BLを切り口に古典文学を解説しようと思ったのでしょうか。

大塚 BLや男色を切り口に古典文学を解説してほしいという依頼は、10年ほど前から何度かあったんです。でも、私に書けるか不安だったので、そのときはお断りしていたんです。BLと男色は違うものだし、扱うには少しセンシティブな部分だとも感じていたので。

ですけど、『源氏物語』を読んでいて、これは男色ではなくBLなんじゃないかと気づいてからは、徐々にその心境も変わっていきました。BLや男色というか、日本の文芸作品に流れる“腐”の精神や妄想力について書けばいいのではないかと思い、今回の祥伝社さんからの依頼を受けました。

――なるほど。担当編集者さんにお聞きしたいんですが、このテーマで大塚さんに依頼した理由は?

編集者 大塚さんの作品が好きだったので、いつかご一緒したいと思っていたんです。いくつかテーマを考えた結果、BLを切り口にお願いしたいと思いました。これまでも日本史における男色を取り上げた作品はありましたが、男性が書かれたものが多かったので、歴史解説に寄ったカタい内容のものが多かったんです。大塚先生なら古典文学に詳しくない人にも伝わるように、優しくお書きいただけるんじゃないかと思いました。

――私も古典文学にはあまり明るくないのですが、この本はとても読みやすく、古典文学をもっと読んでみたいと思いました。男色とBL、男性同性愛は違うものとして書かれていましたが、どのように区別されていますか。

大塚 図を描くと曖昧なところもあるので一概には言えないのですが、あくまで「男色は男目線」「女色は女同士のSEXではなく、男から見た異性にあたる女性とのSEX」「BLは女目線から見た男性同士の愛」と考えます。だから、女性目線から男性同士の微妙な関係が書かれている『源氏物語』は、BLと言えると思ったんです。

平安古典と70~80年代漫画との共通点

――大塚さんは現代のBL作品も読まれますか?

大塚 私は漫画家になりたかったくらい漫画が好きだったんです。私の小さい頃は、まだBLという言葉がなかったんですけど、竹宮惠子先生の『風と木の詩』とか、先生ご自身はBLじゃないとおっしゃってるんですが萩尾望都先生の『11月のギムナジウム』などが好きでした。そのあたりの一般的に“今のBLのルーツ”と言われるような作品は、学生の頃から楽しんで読んでいました。

――BL作品になじみがあったから、『源氏物語』にBL要素を感じられたのかもしれませんね。

大塚 それはあるかもしれないです。BL作品に限らず、その頃の漫画は性や親子関係を突き詰めて題材にしていたりと、古典文学との共通点が多いんです。私は特に平安古典が好きなんですけど、70~80年代の漫画は平安古典とテーマが似ているんですよ。私がそういうテーマが好みで、そういう作品ばかり読んでいたからかもしれないんですが、どちらも性愛や過去のトラウマや親子関係など、ドロドロしたテーマの作品が多い印象です。

――そんな意外な共通点があったんですね。そもそも大塚さんが古典にハマったきっかけは?

大塚 小学生になる前から漫画家になりたかったので、自分で書いてみたりもしていたんですが、中学生くらいになって周りにもっとうまい人がいることを知ったとき、自分は漫画家になれないなと感じてしまって。そんなときに『竹取物語』や『宇治拾遺物語』を読んでみたらとってもおもしろくて、私はこれを極めていこうと思いました。思っていた古典文学とは違うと知って、すっかりハマってしまいましたね。

それと、母親への反動から、日本的なものを好きになった節もあると思います。私の母は、小さい頃にアメリカで暮らしていたんですけど、父親が亡くなってから生活が激変したらしく、それまでのアメリカ生活が理想になってしまったようで、私の前でも「アメリカはよかった」みたいなことを言っていたんです。だから、その影響もあると思います。

――『竹取物語』や『宇治拾遺物語』を最初に読んだとき、衝撃を受けたのはどんな部分だったのでしょうか。

大塚 古典文学に描かれていたエログロ的な要素が、思春期で性とかにも興味が出てくる年齢だった当時の私には、とても魅力的だったんです。例えば、『宇治拾遺物語』には好きな女を諦めるために、相手のウンコを盗むという話があるんです。

――すごく衝撃的…!(笑)

大塚 ですよね(笑)。この話は、実在の人物がモデルになっているんですけど、現在だったら人のウンコを盗むなんて、あり得ないじゃないですか。だから、そういうのがすごくおもしろかったんです。それに、どうやって盗むんだろうと思って調べたら、当時はウンコを箱とか壺に入れて、それを侍女が川などへ捨てに行っていたらしいんですけど、そういう時代背景を知るのもおもしろかったんですよ。

▲大塚さんを通して知る古典はとても魅力的だった