都会の片隅で人知れず路上に生きるホームレスにスポットライトを当てる異色のYouTubeチャンネルがある。それが元お笑い芸人の青柳貴哉さんが運営する「アットホームチャンネル」だ。
番組では黒子役に徹し、クールな印象があるが、どんな思いで活動しているのだろうか。活字版と言える書籍『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)の発売に合わせ、ニュースクランチがインタビューした。
ホームレスに興味を持つようになった原体験
青柳さんにはホームレスに興味を持つようになった、ある原体験があった。
2016年の冬のこと。青柳さんは当時、吉本興業の芸人だったが、それだけでは食べていけずにさまざまなアルバイトをしていた。そのひとつが“お金持ちの運転手”というちょっと怪しげな仕事。
「歌舞伎町の入り口にアルファードを止めていたら、ゴミを漁っているホームレスの方がいました。とても寒い日だったので可哀想だなと、チョコレートをあげようとしたんです。そうしたら周りの人から見られるぐらい大きな声でキレられまして……。そこからホームレスってなんだ? と考えるようになって、ずっと引っかかっていました」
青柳さんはその後、会社勤めを始めた。芸人の仕事はやめていた。書籍での記述を参考にすると、父親を亡くしたことがキッカケで、ズルズルと芸人を続けるのではなく経済的な自立をしなければ、という思いがあったようだ。
そして、コロナ禍が訪れた。
「出勤が減ったこともあって、ホームレスの話を聞くなら今しかない、とYouTubeチャンネルを始めました。どんな人たちで、どんな生活をしているのか? 純粋な自分の興味からです」
「アットホームチャンネル」開設は2020年4月。そこから現在までコンスタントに150本以上の動画をアップ、チャンネル登録者は15万人を越える。
独特のコミュニケーション術で距離をつめる
これまで書名にもある“Z世代”の若いホームレスたちに多く話を聞いてきた。「時代に合わせて形が変わってきている」と語るように、じつは帰るべき家があったり、サラリーマン以上の月収があったり、彼ら・彼女らの事情はさまざまだ。
「ネオホームレスに共通するのはコロナとスマホだと思います。びっくりしたんですけど、公園とかにも食べ物や商品を配達員が届けてくれるんですよね。家がなくても生活できるし、服装などの外見も普通の若者たちと変わりません」
さらに共通点があるとすれば、コミュニケーション能力の低さ。特に、対面になるとシンプルに目を見て話すことさえできないという。要因を青柳さんは自身と比較をしながら、こう分析した。
「僕は福岡県の田川というところの出身なんですが、学生時代は田舎で周りに何もなく、ほかにすることもなかったので、仲間内で延々と話をしていたんですよ。そこで、“あっ、これがウケるんだ”と気づいたり。生きていくうえでのコミュニケーション能力は、高校時代に培われたと思います。
それが、Z世代の子たちはコロナ禍で潰れた3年間で、コミュニケーション力を培う場が奪われてしまったんだろうなと。誰かに助けを求めるのも、イエス・ノーを言うのも、すべてコミュニケーションだと思うんですけど、そういうのがどんどんSNSにいってしまっている」
人と話すことが苦手な相手に対し、どんなことに気をつけて取材を行っているのだろうか。マイルールを聞いてみた。
「自分のほうが怖いんです……という雰囲気を出す」ようにしているという。相手に恐怖感を与えないために取材は基本的に一人で行い、片膝をついて相手より低い目線で、恐る恐る声をかける。相手の言うことは“丸呑みする”ということも意識しているそうだ。
しかし、受け身をとりつつ最後はきちんと主導権を握る。元相方から、青柳さんのコミュニケーションは“グレイシー話術”と評されたこともあるとか。
フラットな目線で関係性を築いていくうちに、相談を受けることもあるようだ。ホストに入れあげるホームレスとして強烈なインパクトを残し、書籍での主要人物にもなっているマナミさんに対しては、説教をしたことも一度や二度でない。
「マナミちゃんは、ゆるく接してしまうと、どんどんゆるくなってしまうので、かなり説教もしてたんです。それもあって、僕のことを“学校の先生みたい”と言っていたそうです。なんか、僕の前だといい子ちゃんをする節があるんですよね。彼女と同居していた子から聞いたんですけど、嫌われたくない人の前ではちょっと違う顔をするから、と。一方、SNSで変なこともしていたわけですが……腹が立つのと同時に、数%喜びの感情もありますね」