同業者向けに相続の講演なども行う税理士・牧口晴一氏が書いた『日本一シンプルな相続対策』(小社刊)は、世の中で起こっている実際の相続問題について、初心者でもわかりやすく解説した、まさに“日本一シンプルな相続対策”についての著作である。牧口氏が税理士を目指したキッカケなどの原点に迫るとともに、多くの著作を通して伝えたいことなどをニュースクランチ編集部が聞いた。
中学生から住み込みバイトで学費を稼ぐ日々
――税理士になるような方は、小さい頃から優秀だったんじゃないかというイメージがあるのですが、牧口さんはどういったお子さんでしたか?
牧口晴一(以下、牧口) 子どもの頃は漫画が好きでしたね。鉄人28号の世代。ただ漫画が好きなだけでなく、自分でも描いてました。
――学校の成績は良かったのでしょうか?
牧口 全然できませんよ(笑)。
――え! そうなんですか?
牧口 算数なんか一番嫌いでしたよ。中学校で因数分解が出てきたあたりから“もうわからん! なんでこんな勉強せなあかんねん!”と思ってましたね(笑)。
――あははは!
牧口 でも、勉強が嫌いでも、中学校には行かないといけないし、両親が病気だったので、アルバイトをしないと飯も満足に食えなかったんです。当時のバイトと言えば、新聞配達しかない時代ですね。だから住み込みでアルバイトしてました。本当は住み込みアルバイトは高校生からなんだけど、頼みこんで入らせてもらって、高校生ばっかりの寮に1人だけ中学生がいましたね。
――ご苦労なさってたんですね……。
牧口 高校もね、勉強が大嫌いだから行くか悩んだし、そもそも受験料が払えないんですよ。みんな滑り止めで私立を受けたりしますよね、でも私立の受験料はむちゃくちゃ高かった。だから公立1本、そこに受かったら高校に行こうと決めたんです。そしたら、なんとか受かったんですよ。しかも授業料免除の奨学金の枠にギリギリ補欠で入れて、授業料を払わずに行けたのでよかったんです。そんな状況なんで、大学は行かずに就職しました。
――どちらに就職されたんですか?
牧口 カメラ屋さん。ちょうどカラーフィルムに変わりかけた頃でした。椅子に座って焼き付けの作業をして、カメラの販売をやって、という感じでしたね。
――カメラに興味があったんですか?
牧口 カメラに興味があったというか、映画に興味があったんです。私は8ミリ映画が好きで、自分でも高校生の頃から制作してたんです。高校3年生のとき、高2で行った修学旅行の模様をまとめた8ミリ映画をコンテストに出したら、賞をもらったこともありました。
税理士になったのは「カッコよかったから」
――牧口青年が税理士の仕事を目指すのは、どういうキッカケがあったんでしょうか。
牧口 それは、“税理士がカッコいい”と思ったからなんです。
――え、そんな理由だったんですか!
牧口 端的に言うと、そうですね(笑)。あるとき、車が止まって背広姿の偉そうな人が来て、お店の専務が慌てて出てきたんです。で、店の奥へと入っていく。夕方になると専務が最敬礼して、その人のお見送りする。そしたら翌日の朝礼にちょっと立派なことを言うわけです。僕は“ああ、昨日の人に吹き込まれたんだなあ”と思う。
――それが税理士さんだった、ってことですか。
牧口 そうそう。その当時はね、今の家電量販店みたいに値段がある世界じゃない。商品に定価の札が載っていて、それを値段交渉で何割引にして売るか、というやりとりをやってました。交渉上手な客には安く売り、善人のお客さんには高い値で売るという、矛盾に満ちた世界で、イヤな仕事だなと思いながら働いていたわけです。
そんななかで“あの先生はえらい尊敬されるやん、ええなあ”と思って。僕は営業が大嫌いだから、やっぱり先生やったほうがいいなあと思って。それを単純に言うと「かっこいい」なんですよね。
――それで税理士を目指したわけですね。
牧口 もちろん、いきなり税理士になれたわけじゃないんですよ。いいなぁと思いつつ、算数は苦手だし、勉強嫌いだしなれるわけねえって(笑)。でも、カメラ屋の仕事もそれなりにやる気はあったんです。どうやったらお店が儲かるかを一生懸命に考えて、いろんなことを店主に言うわけです。でもね、“なんだ、この坊主は”という感じで、ちっとも言うこと聞いてくれない。
どうやったら聞いてくれるだろうかって考えていたら、商工会議所の検定試験に「販売士」っていう資格があるんです。3級2級1級とあって、お店で販売をしていくうえで必要な知識だと思ったのと、これを取ったら少しは話を聞いてくれるかもと思ったんです。
お中元とお歳暮の違いとかね。「夏に送るのは、お歳暮といいます。〇かXか」とか、そんなことは学校で習ってない。自分がお中元やお歳暮をもらうことも渡すこともないからわからない、でも“知ってないと、この先あかんわ”と思って。販売士の3級を受けたら合格。初めて試験らしい試験に受かったから、調子こいて2級も受けたら、それも合格しました。
――それはすごいですね。
牧口 次は1級だけど、ここで簿記が出てくるんです。高校のときになんとなく知っていたけど、そこで初めてこういうことのために必要なんだなって気づきました。販売士の1級を勉強しつつ、並行して簿記の3級を勉強して。販売士の1級が受かったときは、商工会議所の人が「岐阜県で受かったのは、あなただけですよ」って報告に来てくれたぐらい。やろうと思えばできるんだなっていう自信がつきましたね。
そのうち簿記も3級2級と受かって、そこで税理士試験は高卒でも簿記1級があれば、受験資格があることに気がついて、いつまで経っても店主は話を聞いてくれないんで、もう自分のことを考えなあかんなと。だから、簿記1級の勉強を本格的に始めたときに、カメラ屋を辞めて、勉強の道に入ったっていう感じです。