『キングオブコント2016』王者のお笑いコンビ、ライス・田所仁が原作を手がける漫画『異世界蒲田』(作画・海野悠)が、3月10日から総合電子書籍ストア「ブックライブ」での独占配信がスタートした。

タイトルからは、ここ数年で人気となっている“異世界モノ”と思われるが、エリア情報誌の編集者である主人公・八島さくらは、住みたくない街ランキング常連の東京・蒲田へ取材に訪れる。そこへ突如強い光が蒲田を包み、街ごと“異世界”へ飛ばされてしまう……といった内容で、田所が考えた設定からも面白そうな気配がする。

今回は、そんな「蒲田×異世界マンガ」というユニークな設定で漫画原作デビューを果たした田所にインタビュー。40年住み続けているという蒲田への愛や、コントのネタ作りはもちろんのこと、単独ライブのVTR・Tシャツデザインや脚本提供など、幅広いジャンルで表現活動を続けるモチベーションについて語ってもらった。

▲ライス・田所仁

自分がずっと住んでいる蒲田を舞台にしたら・・・

――『異世界蒲田』の原作を担当することになったキッカケからお聞かせください。

田所仁(以下、田所) 2021年の11月に天津・向さんが開催した「声優×芸人 朗読劇『WARAI-GOE』」というライブで、脚本を書かせていただいたんです。それを見たブックライブ編集者のEさんから、終演後に「漫画の原作を書いてみませんか」と声をかけていただきました。

編集者 そのライブで田所さんが書いていたのが、かなりぶっ飛んだ設定のSF朗読劇だったんです。でも、台詞回しがすごく人間味を感じさせるものだったので「田所さんなら、どんなキャラクターが登場する作品を書いても、絶対にいいものになるだろう」と。ライブが終わるやいなや、すぐに声をかけに行きました。

田所 そんなことを言っていただいて、めちゃめちゃ気分がいいですね(笑)。でも、オファーをいただいたときは正直、だいぶ悩みました。僕はもともと漫画が大好きで、子どもの頃から今でも読み続けています。好き過ぎて、漫画作りに携わっている人を神格化しちゃっているくらい。なので、リスペクトがあるからこそ“僕がやっちゃっていいのかな”と迷ったんです。

でも同時に、自分のアイデアが漫画になるって、漫画好きからしたら夢のような話だと思うんです。なので「せっかくだったら、夢を叶える道を選ぼう」と考え直して、オファーを受けることにしました。

――「蒲田×異世界」というテーマが印象的ですが、この発想はどこから?

田所 打ち合わせで、Eさんに「異世界モノを書いてみませんか」と提案いただいたんですが、「異世界モノかあ……あんまり馴染みがないジャンルだし、知識もないけど大丈夫かな」と思っていたんです。

でも、そのときに蒲田の喫茶店で話していたこともあり「自分がずっと住んでいる蒲田を舞台にしたら、異世界モノでもいけるかも」と感じたんですよね。40年以上住み続けている土地だし、今も毎日歩いてるわけだから、ネタにも困らないだろうと。

――「もしも蒲田が異世界に飛ばされたら……」という設定、どこかコントっぽさを感じさせますよね。

田所 そうなんですよ。コントって「病院」「教室」「ラーメン屋」など、とても身近な環境から、いかにぶっ飛んだ展開にできるかが肝になったりするんです。なので、実在する蒲田という場所を異世界に飛ばすという発想は、とてもコント的なんですよね。

――なるほど。作中には、異世界の住人の訪問にも動じない蒲田の人々の様子が描かれていますね。もともと、蒲田という土地に“異世界っぽさ”を感じられていたのでしょうか。

田所 僕自身は蒲田にしか住んだことがないので、ずっと普通の街だと思っていたんですよ。でも、ライスのYouTubeで蒲田を歩く企画をやったときに、恵比寿出身の相方が街の至るところに延々とツッコみ続けてて(笑)。それを見て「あ、ここって変なんだ」と気づかされたんです。

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――関町さんは、どんなことにツッコんでいたんですか。

田所 蒲田って、いろんなものが落ちてるんですよ。例えば歩道に、靴下一足ずつ、靴が一足ずつ並べられていたり(笑)。相方はそれを見て「何だよコレ!」って言ってたんですけど、僕からすると“あるある”なんで「言われてみれば、確かに変だよな……」って。

あとは、民家の塀に某テレビ局のマスコットキャラクターがグルグル巻きになって吊るされていたり。入っちゃいけない村で罰されている罪人みたいな。

――(笑)。『異世界蒲田』を読むと、田所さんの“蒲田愛”が感じられます。どんなところに魅力を感じ、惹かれていますか。

田所 とにかく、住んでいる人たちが個性的なんですよね。周りに流されないマイペースな人が多いように感じます。例えばハロウィンの時期になっても、そういう雰囲気をいっさい感じさせませんし(笑)、クリスマスムードは多少あっても、サンタの置物やイルミネーションを2月くらいまで飾っていたりします。そういう、人の目を気にしないでいられる、なんでもありな街の空気感があるからこそ、自分も等身大でいられる気がしますね。

それから、美味しい飲食店が多いところも魅力の一つです。最近は芸人のあいだでも蒲田のグルメが話題になっていたりして、よくオススメを聞かれます。餃子・ラーメン・とんかつ……、飲み屋もいいところが多いですよ。僕も蒲田で一人飲みをしますけど、立ち飲み屋で知り合ったおじさんと銭湯に行ったりもしました。