「日本文理の夏はまだ終わらない!」を生観戦
――甲子園、社会人、大学、プロなど、さまざまな試合を見てきたと思うのですが、忘れられない試合を教えてください。
かみじょう 2009年の夏の決勝「中京大中京VS日本文理」ですかね。僕は、日本文理の一塁側アルプスの最上段。「オロナミンC」の看板の“C”の下で見ていたんですよ(笑)。
9回表で10(中京大中京)対4(日本文理)。日本文理が簡単に2アウトを取られたときに、周りのおっちゃんたちが「阪神電車が混むから」って球場を出たんです。でもその後、2アウト、ランナーなしから、ガンガン打って、1点差まで追い詰めて……。僕は球場にいたので生で聞いていないですが、小縣裕介アナウンサー(ABCテレビ)の「日本文理の夏はまだ終わらない!」という名実況もありましたよね。結局、10対9で日本文理が負けるんですが、毎年、高校野球があるたびにあのシーンを思い出すんです。
すごく気になるのが、あのときに「阪神電車が混むから」と帰ったおっちゃんたち。きっと、(数駅先の)尼崎駅あたりで「あの試合、あそこからやん!」と泣いたと思います(笑)。なんやったら、9回2アウトから来ても面白かった試合やのに! あれを現地で見たのは、僕の財産ですね。
――名試合は記憶にも刻まれますからね。
かみじょう スタンドでは、ピッチャーの伊藤くんのお父ちゃんとか、5番を打った高橋くんのお母ちゃんとか、みんなで抱き合って泣いていて。そのなかに僕も入ってね……。
――ええ(笑)!
かみじょう さすがに最後、伊藤のお父ちゃんに「お疲れさん」だけ言わなアカンなと思って〔伊藤さんの父親とかみじょうは、ある場所で偶然知りあい親交を深めた仲〕近づいていったら、お父ちゃんが泣きながら「お前、なんで応援してくれたんだよ! 何も関係ないよな!?」って(笑)。そのあと抱き合いました。
――そんな思い出が(笑)。かみじょうさんは、今年もかなりの頻度で甲子園に行かれていますが、印象に残った試合(インタビュー時は2回戦中)はございましたか?
かみじょう 1回戦の鳥栖工業と富山商業ですね。あの時点で、今大会ナンバーワンの試合だったと思いますよ。今年はエラーが目立った試合が多かったのに、この試合はタイブレーク(延長)まで両校ともノーエラーだったんですよ。両校が守備で魅せるって素晴らしかったと思います。
延長12回、富山商ピッチャーのエラーで試合が決まるんですけど、それもね、僕はエラーじゃないと思うんです。ピッチャーのフィールディングが良すぎて、ボールに届いてしまった。普通だったら投げずに満塁でもいいのに、ファーストに投げてしまい、ボールが流れて、サヨナラになったんですけど、あのピッチャーのディフェンスがすごかっただけなんです! 普通の選手だったらエラーもつけてもらえないぐらい鳥栖工のうまいバントでしたからね。
10回も富山商のフィルダースチョイスになった場面がありましたけど、あれも攻めのプレーやったし……。他にも中日ドラゴンズの荒木・井端コンビを彷彿とさせる二遊間の綺麗なトスさばきがありましたからね! 鳥栖(とす)相手にあのグラブトス! 震えましたよ。
――うまい(笑)。なぜこんなにも野球というスポーツにのめり込んだと思いますか?
かみじょう 僕が出会ったのが、たまたま「野球」だったということだけなんですよね。もちろん、野球というスポーツは好きですし、「あの1球はこうせなアカン」とか、細かいプレーにもロマンはあるんですけど、僕はそこには何も興味ないんです。それよりも、野球をしている子の人生のほうが気になる。
160キロ投げたり、100本ホームランを打ったりする子も素晴らしいんですけど、「高校3年間で1回もベンチ入りしていないんです。でも、野球が好きやからやっているんですよ」みたいな子にグッと興味が湧くんですよね。その子の“その後の人生”が知りたくなって「ちょっと友だちになってくれよ。応援に行くから!」でつながっていく。だから、僕の本には成功した人の話というよりも、あまり知られていない子の話が多いと思うんです。
僕は、野球を通した人間ドラマが好きなのかもしれないですね。僕自身、だらしない人間なので、成長したい気持ちがめちゃくちゃあるんですよ。みんな自分に持っていないものを持っているから素晴らしいし、そのなかで「どうやったら自分が頑張れるのか」を野球から学んでいるのかな、と。だから、僕の教科書・生きる指針は、芸人じゃなくて、球児にあるんですよね。
(取材:浜瀬将樹)