高校球児の夢の舞台「全国高等学校野球選手権大会」。2023年は慶応が仙台育英に勝ち、107年ぶりの優勝で幕を閉じた。今年の甲子園で繰り広げられた名試合や名シーンは、これからも後世に語り継がれていくだろう。

今夏に発売された、かみじょうたけしの著書『野球の子 盟友』(二見書房)は、年間100試合以上も球場に足を運ぶ「高校野球大好き芸人」のかみじょうが目にした、高校野球の熱きシーンやあの試合の裏側、知られざる球児の人生など、数々の野球エピソードが綴られている。

野球を明快に面白く語る話術とその人柄で、多くの野球人から愛されるかみじょう。ニュースクランチのインタビューでも、高校野球に対する熱さと、彼の人間力が感じられる時間となった。

▲かみじょうたけし【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

「この子らのこと書くヤツおらんやろうな」

――前作『野球の子』に続き、本作が二作目です。執筆するきっかけとなった試合があるそうですね。

かみじょう 昨年の夏、奈良県の地方予選の決勝「天理高校vs生駒高校」の再試合を見たときに“書きたいな”と思ったんですよね。

※地方予選初の決勝に勝ち上がった生駒だったが、前日にコロナウイルスの感染者が続出。20人中、12人が入れ替わって決勝に挑み、名門・天理に敗北を喫した。試合終了後、天理の中村監督から、生駒の北野監督へ再試合の提案があり、昨年9月11日に再試合が実現した。

かみじょう 正直、一作目を書いたとき、むちゃくちゃ大変で“もう本の話が来ても書かんとこ”と思っていたんですよ。でも、あの試合を見たら「これは僕しか書けないんじゃないか」「この子らのこと、こんなに見て書くヤツ、他におらんやろうな」と。そこから二作目が始まった感じです。

――本作では、かみじょうさんが出会った球児をはじめ、さまざまな野球人とのやりとりや、その人の人生が描かれています。エピソードを書いた方々からの反応はありましたか?

かみじょう 元智弁和歌山高校の髙嶋奨哉くんは「家族みんなで喜んでいます」と言ってくれました。名将の髙嶋仁さん〔智辯学園、智弁和歌山などを幾度となく優勝に導いた元監督で奨哉さんの祖父〕も喜んでいた、と聞いてうれしかったですね。

――描写も細かく、まるで野球小説を読んでいる感覚になりました。かみじょうさんの記憶力もすごいですよね。

かみじょう 覚えているところしか書いていないだけじゃないですかね(笑)。例えば、髙嶋くんを相手にした智弁和歌山・中谷仁監督の魂のノックは、今でも鮮明に覚えているんですよ。

髙嶋くんに魂のノックをした直後、バックネット裏で疲れ果てている中谷監督が、挨拶してきた僕を見て「アイツすごいんですよ」といきなり言ったんです。“(かみじょうが)絶対に髙嶋のことを聞いてくるやろうな”とわかったんでしょうね。中谷監督が「おじいちゃんがとてつもなく偉大やし、いろいろ言う人もいますけど、アイツは実力でレギュラーの座をつかんだ」って。あのシーンは忘れられないです。

僕は芸人やから、こうやってインプットしたものを、ラジオとかトークライブで喋ってアウトプットしていくので、脳に刷り込まれていくのかもしれないですね。

▲記憶力に自信はない、と言いながらも描写は登場人物本人が驚くほどに忠実だ

――近年、高校野球の概念もガラリと変わってきています。高校生に野球を指導する監督が大切にするべきことは、どんなことだと思いますか?

かみじょう 先日、星稜高校野球部の元監督・山下智茂さんが「技術は変わるけど心は変わらない」とおっしゃっていたんですよ。

技術については「今はYouTubeとかいろいろあるし、僕らが何か言うよりも、巨人の坂本選手のワンプレーのほうが勉強になるんです」と言っていて。でも、ほとんどの選手がプロには行かずに野球をやめるじゃないですか。そんな彼らが社会に出たときに「こいつ星稜の元野球部か。なんちゅう態度とってんねん」と言われるよりも、やっぱり「“さすが、星稜の野球部出身やね”と言われるようにしたい」とおっしゃっていて。

山下さんから「技術だけじゃなくて、野球に向かう姿勢や心を教えたい」と聞いたとき、素晴らしいなと思ったんですよね。もし、自分の子どもが野球を続けていたら、そうした考えを持つ監督に指導してほしいです。

――高校生の時点で、心を学べるって貴重ですよね。

かみじょう 社会に出て、めちゃくちゃ怒られてもいいと思うんですけど、同僚が怒られているのを見たときに、そこに寄り添って「俺もさっき怒られてん。アイツめんどくさいよな〜」と声をかけるとか、そうした気遣いや優しさを学んでほしいですよね。

野球って結局は、思いやりのスポーツやと思うんですよ。例えば、ゴロをとってファーストにボールを投げるとき“どこに投げたら彼は捕りやすいのか”と考えるじゃないですか。打つときもバッターが“あいつをホームに返したい”と、自分じゃなくて誰かのために頑張る。これって全部が仲間のことを考えたプレーなんですよね。技術も大事ですけど、思いやりがないと上達もしないし、そのチームは強くならないと思います。心を学ぶことは、今までもこれからも大事だと思いますね。

▲野球は思いやりのスポーツと語る