時間の長さは会う人数によって変わるのかな

新井 家にこもっている頃、娘の1年間を見ていて長いなと思っていたんです。僕はただ漫画を描いているだけで「もう1年経った」「また1年経った」って、どんどん時が過ぎていたのに。

でも、50歳を過ぎて人と会うようになったら、1年が長く感じるようになりました。外に出始めてよかったなと思いますね。ほんの1~2か月前のことを「それって、まだそんな近々のことだったっけ」って、遠いことに感じるようになっちゃって。不思議だなと思います。

板尾 確かにそうなんですよね。子どもの頃の時間が長いのって、学校に行ったらいっぱい人がいるじゃないですか。で、働きに出るようになると、社員がいる。人が周りにいると、1日1日が長く感じるんですよね。時間の長さは、会う人数によって感じ方が変わるのかなって。大勢の中にいるといろんなことがある、いろんな人との時間を共有しているのかもしれないですね。

新井 僕、今が人生で一番、子どもになっているかもしれない(笑)。

板尾 時間がいい意味で濃く、長く、重くなっているんでしょうね。

新井 そう。誰かと誰かが仲悪くなって「じゃあ、それどうしようか?」とか考えたり。それって、子どもがやることですよね(笑)。

板尾 僕は外で仕事している人間ですし、人にはたくさん会いますが、知り合いは増えても、新しい友達はなかなかできません。新井先生が羨ましいなと思います。

▲お互いの家族について語り合う二人

娘に自分の作品を見せたり勧めたりはしない

――新井さんが「娘さんが苦労したときに、何も力になれなかったことにハッと気づいた」という話をされていて、すごく印象的でした。

新井 漫画では、世界をどうこうしようとかって大きいこと描いてきたのに、いざ娘が悩んだときに自分が何もできないのは衝撃でした。“あ、自分ってこんなもんなんだ”って、めちゃくちゃ反省しましたね。でも、娘は友達ができてからいい方向に変わって、その辺りから僕も好きなことを始めました。

うちは今、娘を含めて3人で生活をしているんですが、気がついたら娘も映画好きになってくれていて。僕自身が父親から映画で教育されていたので、昔、娘にも同じようにやったらすごく嫌がられました(笑)。

反発されて、クラシックバレエとか演劇に興味が向くようになったみたいで。演劇がむちゃくちゃ好きになってからは、戯曲を読んでいましたね。そこから知り合った舞台関係の人が映画好きだったらしく、映画を見るようになったみたいです。たぶん、娘と同世代の頃の自分より、娘のほうが本もめちゃくちゃ読んでいますね。その興味はすごいなと思います。どっちのDNAだかわかんないけど(笑)。

板尾 僕は娘に特別な教育をしたりはしていないのですが、妻が厳しいので、気になることがあればどちらかが伝えるようにはしています。あくまでも愛情ですね。その都度何かを教えたりすることはありますけど、教育って感じでは特にやっていません。

僕は基本、家で仕事の話をしないんです。聞かれたら、素人でもわかりやすいことだけは説明することもあるけど、深くはしない。家族が他人に聞かれることは多いだろうから、そういう意味で「いま何やっているの?」「次は何の役をするの?」とかを聞いてきたりはしますね。でも、僕が出ている作品をわざわざ見せるとかはしません。もちろん興味はあるはずなので、見ているものもあるとは思いますけど。

新井 僕も自分の漫画を勧めたことはないですね。でも、僕が描いた『キーチ!!』という小学生が主人公の漫画があって、それは隠れて読んでいたみたいです。小学校の頃に娘の友達が家にやってきて、友達がその漫画に手を出そうとしたら、娘がものすごいスピードで取り上げてました(笑)。

板尾 (笑)。面白いですね、友達にはまだ早いと思ったんかな?

新井 どうなんでしょう?(笑) で、その後、暴力の根源の『ザ・ワールド・イズ・マイン』を娘が読み始めて、長年の僕の担当編集者が、娘に感想を聞いたら「よそ行きの顔してる」って。言い得て妙でした(笑)。

うちは奥さんが同業者なのもあって楽なんです。例えば、ネームを考えている時間って、普通の人にはなかなか理解してもらえない。とっととやればいいじゃない、何もしていないだけだ、とか思われがちだけど、そこはお互いに我慢できる。今は何もできていないけど、何かを描き出せる手前だって。それを理解してもらえるのはいいかな。

板尾 それはやっている人じゃないと絶対わからないですからね。ボーっとテレビを見ているわけじゃない、テレビ見ながら引っかかったことに対して妄想しているんですよね。

うちの場合は、その道の人じゃなくてもわかることに関しては気づかってもらっているんですけど、先生がおっしゃったように、やっている人じゃないとわからないことは理解していないですね。でも、あまりわかってもらおうともしていません。奥さんが同業者じゃないメリットもあるので、それはもうしょうがないことだと思っています。

≫≫≫ 映画・漫画・笑いについて語った「板尾と漫画家-新井英樹-」後編は、11月15日に公開予定です。お楽しみに!

(取材:萌映)


<イベント情報>
関西演劇祭 2023
日程:2023年11月11日(土)~19日(日) ※休演日あり
場所:COOL JAPAN PARK OSAKA SS ホール(大阪市中央区大阪城3-6)
参加劇団:Artist Unit イカスケ / 演劇 組織 KIMYO / 餓鬼 の断食 劇団イン・ノート / 劇団FAX / バイク劇団バイク / PandA / MousePiece ree / 無名劇団 / ヨルノサンポ団