お笑いコンビ「130R」としての活動のほか、近年では味のある演技で俳優としても活躍している板尾創路。映画監督としても『板尾創路の脱獄王』『月光ノ仮面』、ピース・又吉直樹原作の『火花』を発表しているが、今年の11月に5回目を迎える『関西演劇祭2023』のフェスティバルディレクターも務めている。

そんな板尾が、人気漫画家とクリエイティブについて話し合う対談「板尾と漫画家」。今回の対談相手は、育児エッセイ『ママはテンパリスト』や、自身の生い立ちを描いた『かくかくじかじか』、映画化された『海月姫』など有名多数の女性漫画家の東村アキコ。

もともとお笑いが好きで、板尾のことを「神格化している」と話す東村と、東村の漫画やデッサンを見て、人間の感性や人生の面白さを感じたという板尾。クリエイティビティあふれる二人の対談をご堪能ください。

▲「板尾と漫画家」第三回-東村アキコ(前編)-

板尾さんは神格化されているポジションの人

――東村さんから見た板尾さんは、“昔からイケメンだけど、ちょっと怖い人なのかな?”という印象だそうです。

東村 私、本当にお笑いが好きで、番組を見ての話になっちゃうんですけど……。

板尾 どうぞどうぞ(笑)。イケメンではないですが。

東村 以前、『すべらない話』で芸人さんが話していたのですが……若い頃にダウンタウンさんの追っかけをしていたら、袋小路で車に乗った板尾さんを見つけたんだそうです。追い詰めるつもりはなかったけど、ファンだから追いかけていたら車が止まっちゃって。そうしたら板尾さんが降りてきて、「下がれー!」って叫んだって話が私すごく好きで(笑)。

板尾 あったかもなあ、なんとなく覚えています(笑)。

東村 松本(人志)さんも「そういうとこあんねん!」って、すごくウケていて(笑)。なんだろう……板尾さんは、あまり笑っている印象がないかもしれないです。テレビを見ていると、お笑い芸人さんってみんなゲラじゃないですか。板尾さんは笑わない方だな、という意味で、少し謎めいているという意味での怖い人という印象ですね。

板尾 ほぼ合っていると思います。つかみどころがない感じって、よく言われますね。笑ってないわけではないんですけど、そういう印象があるんだと思います。

東村 そうですそうです。完全に視聴者の印象なんですけど(笑)。特に吉本の芸人さんは、すごくみんな笑うイメージがあるので。

板尾 僕も笑うときは笑ってるんですよ。他の人と比べると笑ってなかったりすることが多いのかな。

東村 子どもの頃はどういう子だったんですか?

板尾 別に暗くはなかったですし……普通ですかね(笑)。

東村 美少年だったわけですよね。

板尾 いやいや、美少年って……(笑)。普通ですよ。

東村 私たちの世代は、板尾さんといえば「ダウンタウンの軍団に一人だけかっこいい人がいる」みたいな印象です。

板尾 東村さんのご出身はどちらですか?

東村 九州の宮崎県です。平日の夕方4時に『ごっつええ感じ』をやっていて(笑)。私、吉本が好きすぎて、大阪にも3年くらい住んだんです。若い頃は漫画の仕事もあるんだかないんだかって感じだし、売れるかもわからないから……もし漫画家でダメだったら、吉本のマネージャーになろうと思っていました。なんか入れてくれそうだなと思って(笑)。

板尾 マネージャーも一応、皆さん優秀で、ちゃんと就職試験を受けているんですよ(笑)。でも、わかります。芸人もマネージャーの話をすることがよくあるし、面白い人が多いのかなと思いますよね。

東村 気軽に入れると思っていました…(笑)。でも、そのくらいお笑いが好きで。先週もマンゲキを見に大阪まで行きました。私、ビスケットブラザーズの大ファンなんです。でも、見に行ったらトットっていうコンビも面白くて。天才すぎてちょっと引きました(笑)。それこそ、ちょっと板尾さんの系譜のように感じました。

板尾 僕より詳しいですね(笑)。

東村 若手の芸人さんもチェックするようにしているお笑いオタクなんですが、そのなかでも板尾さんはもう神というか……私の中で神格化されているポジションです。

東村さんの漫画は情景が浮かんでくる

――板尾さんから東村さんへの印象はどうですか?

板尾 漫画読ませていただきました。多少はドラマチックに描かれているのかもしれませんが、すごくリアルですよね。

東村 むしろ、ちょっと弱めているくらいです。人が座っている位置まで鮮明に描いているので、なんか映像記録みたいなのをそのまま出している感じです。

板尾 そんな感じがしますね。漫画を読んでいるんだけど、その感覚はすぐになくなるというか……漫画の絵ではなくて、その情景が浮かんでくるようです。リアリティもあるし、面白い人生だなあって思いました。

東村 ありがとうございます、板尾さんに人生を褒めてもらってうれしいです。よく大変ですね、と言われるんですけど、思い出を描いているだけなので、時間は本当にかかっていないんです。“今日やるか”と思ったら1日で1話を描いてしまうくらい。日記みたいな感じなので、考える時間がないんです。だからこそ、楽でもありツラくもあるんですけど……。

板尾 なるほど、でも確かにそうですよね。本当はこうなりたかったとか、そのときの気分になっちゃいますよね。

東村 「こんなこと言いやがって!」と、昔の自分を殴りたくなることもあります(笑)。

板尾 とんでもないことが起こるので、事実かどうかを疑いたくなることもあって逆にいいというか。どんどん興味が湧くし、読み応えがありました。

東村 ありがとうございます。新人の頃からノンフィクションを描いてきたのですが、それは編集部にウケるからなんです。想像で描いた話とはウケ方が違うんですよ。ウケるとうれしいから調子にのっちゃって(笑)。「自分の人生ってウケるんだ」と思ったのは20年くらい前ですね。結局はリアルな話のほうが、みんなとっつきやすいのかなっていう感じは、時を経て、スマホ時代になってより一層感じています。

私はヤキモチ焼きじゃないので、どんどん新人の漫画家さんが出てきて、(自分は)押し出されて隠居したいと思っているくらいなので。応援する意味でも、よく他の方が描いた漫画を読んでいます。

板尾 僕は漫画を読まなくなってしまいましたね。最近は娘が読みたいと言うので、内容をチェックする意味も込めて、『鬼滅の刃』は全巻買って読みました。

東村 『鬼滅の刃』は衝撃的に面白いですよね。最初に読んだときも「10年ぶりぐらいにビッグウェーブ来るぞ」って。『進撃の巨人』の1話目を読んだときも、1ページ目で“あ、久々に来たな”と思ったのですが、鬼滅を見たときも同じ感じでした。業界には、7年に1回はビッグヒットが出ると言う説があって、ちょうど7年目だったんですよね。