緻密な構成が光るフリップネタを中心に、ピン芸のNo.1を決める『R-1ぐらんぷり(現R-1グランプリ)』で6回も決勝進出を果たしているヒューマン中村。最近では、もともと好きだというコントに力を入れている彼が、芸歴20周年を記念した単独ライブ『大事(おおごと)』を、大阪・なんばグランド花月(以下、NGK)で開催する。

賞レースに勝てるネタを量産していた時期を経て、じっくりと自分のネタに向き合い、半年に1回のライブは口コミで配信の視聴者が増加。実直に芸と向き合ってきたなかで、今回の単独は多くのチャレンジをする重要なライブにしたいと語る。まさに大事(おおごと)となりそうだ。

※本記事は『+act.(プラスアクト)2024年2月号』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

同期の単独ライブ開催が刺激に

――NGKでの単独ライブが決まったときの率直な気持ちを聞かせてください。

ヒューマン中村(以下、中村):自分から(劇場へ)お願いして実現したんですけど、2023年3月くらいに、同期のもりやすバンバンビガロっていうピン芸人がNGKで単独するらしい、という話を聞いて。あぁ、もうそういう芸歴なんかなと思った辺りから単独を意識し始めたんです。

芸歴20周年ということもあるので、昨年6月の単独ライブの準備をしているときに“このライブが満席になったらNGKで単独をやりたいな”と漠然と考えてまして。結果、満席にはならなかったんですけど、ほぼ満席と言ってよかったというか。来てくれるお客さんがすごく増えましたし、いつも単独ライブについてくれている作家の吉岡さんという方も前向きに背中を押してくれて。

「NGKで単独しようと思うんやけど、どう思う?」って相談した後輩が、誰も「やめといたほうがいい」とは言わなかったので、じゃあ、やるか! と思ってお願いしたという感じでしたね。

――吉本に所属していて単独ライブをやりたいと思っている芸人さんならば、NGKは誰しもが目指す劇場ですよね。

中村:特に大阪の芸人はそういう気持ちがあるんじゃないですかね。やっぱり笑いの聖地ですし、NGKに出ることがひとつの目標だったりもするので、そこで単独ライブができるのはすごく感慨深いです。僕のひとつの夢でもありました。

――今までやってきた単独ライブから、また更に気合も入っているんじゃないですか。

中村:めちゃくちゃそうですね。何よりも物理的に舞台が広いですし、今まで単独をやらせてもらっていた、よしもと漫才劇場にはない舞台装置も使えたりします。今までで一番いいものにしようと気合が入ってます。

現時点ではゲストなしで、ひとりでやろうかなと思っていて。今までの単独は60分間、ひたすらネタを見てもらうというもので、構成という意味では今までの単独と同じではあるんですけど、今回もネタを大事にしたいので、そうするつもりですね。

――ネタ作りはもう始められているんですか?

中村:始めてます。NGKやからこそやりたいネタもあって。決まった時点で、こんなんしたいなっていうふわっとしたイメージがあったんですけど、それが本当に形になったら、来てくれたお客さんも楽しんでくれるやろなって、ワクワクしながら考えているところです。

“熱量ってちゃんと伝わるんやな”

――最近は半年に1回、単独ライブを開催されていたんですよね。

中村:コロナ禍はなかなかできてなかったですし、コロナ禍以前は『R-1ぐらんぷり』に挑戦していたので、どちらかというと『R-1』用のネタを作るために月に1回の単独ライブをやってたんです。そこでは毎回、新ネタを10本下ろしていたので、荒いネタもいっぱいやっていて。

『R-1』に出られなくなって賞レース用のネタを作る必要がなくなってから、ひとつひとつ丁寧に作って完成したネタを発表しようとなったのが、一昨年末の単独くらいからやったんです。

で、今年6月と、半年に1回単独をやるようになったら、配信のチケットが当日までに購入したお客さんよりも、公演後に口コミで購入した方のほうが増えて。そこで、“あぁ、もしかしたらお客さんが増えるかも”と思えたのが自信になったというか、内容がいいと公演後に購入してもらえるんやって、実感できてうれしかったですね。

……本当はNGKの単独までにもう1回、年末に単独を挟みたかったんですけど、そうすると芸歴20周年の期間が終わってしまうので、今のようなスケジュールになりました。

――上演後に配信の購入者が増えることは想定されていたんですか?

中村:いえ、全くしてなくて。久しぶりの単独やったので、いいものを作ろうと思ってやったら、見てくださった方が「いい単独やったから他の人にも見てほしい」と熱量を持ってツイートしてくださって。それを見て配信を買ってくれた人が、(SNSに)感想を書いてくれたのを見たときはびっくりしました。熱量ってちゃんと伝わるんやなと思って、うれしかったですね。

――毎月1回やっていた単独から半年に1回になって、ネタ作り的にも変化は大きかったのですか。

中村:お客さんの前でネタをやるハードルが、自分の中で今まで以上に高くなった気はします。毎月やっていた頃は、言うたら未完成でも出してたところがありましたし、10本のなかにめちゃくちゃウケる1本……それが賞レースに向けた勝負ネタになれば、他の9本はスベってもいいわって思ってたんですけど、半年に1回になってからは全部のネタで満足してもらえるように、より丁寧に作るようになりました。

あと『R-1』に出ていた頃は、予選でできないネタは作ってもなかったというか。『R-1』の予選って、例えば暗転やモニターが使えなかったりするので、思いついてもどうせできんからと思ってやってなかったんですけど、賞レースに出なくなってからは舞台の演出を取り入れたネタを作ることが増えました。

――ヒューマンさんと言えば、フリップネタのイメージも強いですが。

中村:あれも『R-1』に勝つためにやってたところはありました。フリップネタって、言うたらコスパがいいというか、短い時間で笑いの数をたくさん増やせるのでやっていたんです。けど、じつはコントが好きだったので、やりたいネタをしようと思ってコントばかりやるようになりましたね。

――コントはどんなところに面白さを感じているのですか?

中村:僕、『R-1』でフリップネタをやっていたときに、人間味がないと言われてたんです。でも、コントでは人間味も滲み出るといいますか、僕がほんまに言いそうなことを言えたりするので、よりリアルになるんですよね。あと、好きなセリフをたくさん入れられるのも楽しいですし、物語や展開を考えるのも楽しいですけど、コントをたくさん作るようになってから、難しさもめちゃくちゃ感じてます。

例えば、フリップネタやったら4枚目の笑いが弱いから、そこだけ変えようとかできるんですけど、コントは物語があるじゃないですか。で、3つめのセリフがウケないからといって変えようとすると、全部を変えることになってしまうんです。

それに、フリップは面白い言葉を紙に書いて出すんで伝わりやすいんですけど、コントは接続詞一文字が変わるだけでニュアンスが変わるし、もちろん演技力も必要で。ピンのコントって、喋ってる相手の人をお客さんに想像してもらわなきゃいけないので、そこもすごく難しいですね。説明不足やと全然伝わらなくなるので、丁寧にしないとなと。だから、単独ライブはいつもめっちゃ緊張しますし、怖いなと思いながらやってます。

ヒューマン中村さんへのインタビュー記事は、発売中の『+act. (プラスアクト) 2024年2月号』に全文掲載されています。