あの一瞬で未来が大きく変わってしまった

J1昇格プレーオフについて、僕の体験談を話させてください。あらかじめ言っておくと、とても苦い記憶です。サッカー人生で一度も経験していないことが、あろうことかプレーオフの舞台で起きてしまったのです。

忘れもしない2014年11月30日のこと。その年の初めにポーランドからJリーグに復帰し、ジュビロ磐田に所属していた僕は、シーズンを4位で終えてプレーオフ準決勝に臨むことになりました。

その初戦の相手がシーズン6位のモンテディオ山形でした〔※5位のギラヴァンツ北九州はJ1クラブライセンスを保有しておらず、プレーオフに参加できなかった〕。シーズン成績上位のジュビロは引き分けでも決勝に進める。試合は山形に先制を許す苦しい展開になってしまったけれど、前半のうちに同点に追いつくことができた。

先発出場した僕は、後半30分頃に交代でベンチに下がったと記憶しています。あとはチームメイトに託し、ベンチから祈るような気持ちでピッチを見つめていました。

時計の針は進んで、後半アディショナルタイムに突入。この時間になると、引き分けOKのレギュレーションを踏まえ、失点しないことだけを願っている自分がいました。ヤマハスタジアムに詰めかけた多くのジュビロサポーターも同じ考えだったはずです。

アディショナルタイムが2分に差し掛かった頃、あの“事件”が起きてしまいます。ビハインドの山形は右CKの場面で、GKの山岸さん(山岸範宏/引退)もゴール前に上がってきました。総動員で得点を狙う捨て身の攻撃を仕掛けてきたというわけです。

それに対して、ジュビロは11人全員で自陣ゴール前を固めていました。ベンチからは監督の名波さん(名波浩)やコーチ陣がマークの確認を行うだけでなく、僕も含めたベンチメンバーが懸命に声をからして仲間を鼓舞していました。

でもサッカーの神様は時に残酷で、信じられないような試練を与えてきます。CKの軌道はしっかり覚えている。鋭いボールがニアサイドに送られ、誰かに当たってジュビロのゴール方向へ飛んでいったのです。

「あっ」

並んで見ていたベンチメンバーの誰かが思わず声を漏らした次の瞬間、スローモーションになったボールが静かにゴールネットへ吸い込まれていきました。

あのシーンは忘れられないし、今も脳裏に焼き付いている。でもその時は誰に当たってゴールになったのか、すぐにはわかりませんでした。山形の選手たちが山岸さんのところに集まって喜びを爆発させているのがわかったけれど、それでもまだ信じられなかったです。

苦労して辿り着いたプレーオフの舞台で、まさかの形で敗戦を喫してしまった。それは来年もJ2で戦うことを意味していました。ここまで頑張ってきたことが、すべて水の泡になってしまったような大きなショックを受けました。

まさしく筋書きのないドラマのような出来事が起きるのがプレーオフの面白さであり怖さです。それが完全なるノンフィクションで展開されるのだから、観戦している側からすればたまらないと思います。

でも当事者にとっては、人生を賭けた運命の分かれ道となります。その90分で、あるいは一瞬で、未来が大きく変わってしまうのですから。

僕は2018年にも横浜FCの一員としてプレーオフを戦い、リーグ戦で下の順位だった東京ヴェルディにアディショナルタイム弾を食らって昇格のチャンスを逃しました。1年間積み上げてきたものがゼロにリセットされるのは、本当に辛いし、苦しい。

だからこそ昇格を成し遂げた時の喜びは、言葉では表現できないくらい大きい。J2のチームと選手は、努力も苦労も、すべてが報われる一瞬を目指して戦っているのです。

勝敗のカギとなる外国籍ストライカー

J1昇格に向けて大きな力となってくれるのが助っ人外国人の存在です。チームを強化する手っ取り早い方法は何か。絶対的な正解はないけれど、有効な手段のひとつとして能力の高い外国籍選手を獲得する手が挙げられます。

J2の多くのクラブは、J1クラブと比較して資金力に乏しいです。だから獲得できる選手も限られてくるのが実際のところでしょう。外国籍選手を獲得して雇うには、日本人選手とは比べものにならない費用がかかるからです。

単純に年俸が高いだけでなく、前所属クラブとの契約が残っていれば例外を除いて移籍違約金が発生します。それだけではなく外国籍選手は、個別に付帯事項がつくケースもあります。家賃のクラブ負担や自動車の支給、出身国との往復航空券などが契約に盛り込まれるため、トータルでの出費はかなり大きなものになるのです。

コストがかかるということは、それはビジネス的に言えばリスクとイコールという考え方もできるでしょう。選手が投資に見合ったパフォーマンスを発揮できないのはよくある話なので、能力を見極めるだけでなくリーグの性質やチームスタイルに合った選手を探すことが大事になります。

どんなに素晴らしい実績を持った選手でも、日本やJリーグに適応できなければ活躍はできません。これまで環境に慣れることができずに去っていった外国籍選手は数えきれないほどいます。

ターゲットになるポジションは、カテゴリー問わずストライカーが多いです。点を取るという才能はサッカーにおいて最も重要で、だからこそ高値がつきます。本来ならば日本人FWを育てるのが理想だけれど、即効性を求めるという点で外国籍選手を獲得するチームは多いです。

J2だけでなくJ1にも共通するのは、外国籍選手のストライカーが活躍したチームが優勝や昇格に近づくということです。勝敗に直結するポジションだけに、彼らは大きな責任を負っています。助っ人の質は、どの時代もカテゴリーを問わず勝敗の鍵を握っているのです。