メディアで人気となったチャーミーを追いかけて
怪談グランプリで優勝した反響は少しずつ広がり、県外の怪談イベントにも呼ばれるようになった。ただ、出演料はちょっとした謝礼程度のみ。それでも、イベントのオファーをもらうのがうれしかった田中さんは、全てのオファーを承諾。県外のイベントには、交通費を自分で払いながら出演を続けた。
そして、活躍の場をコツコツと広げていくと、2018年にチャーミーとの出会いを果たす。
「怪談ライブのあとに楽屋に戻ると、女の子の人形が手紙と共に届けられていた。手紙には、“老人ホームで、この子をかわいがった人たちが不幸な目にあったので、田中さんに送ります”と書かれていました。捨てるのもよくないし、かわいそうやなと思い、引き取ることにしたんです」
家にチャーミーを持って帰ると、ポルターガイスト現象がたびたび起こるようになった。部屋の電気がチカチカと点滅したり、勝手にsiriが立ち上がったり……。その現象に遭った田中さんは思った。
「これまで信じていなかったけど、モノに魂は宿るのかもしれない……」
こうして呪物コレクターとしての活動を始めることを決意。チャーミーと一緒に怪談イベントに出るようになった。すると、ニコニコ動画などのネットの動画コンテンツを中心に、チャーミーへの出演オファーが届き始める。
2021年にはチャーミーが売れっ子になり、出演先を転々として東京から戻らなくなった。そのチャーミーを追いかけて、田中さんは上京。東京に来てからは、呪物コレクター仲間とのつながりも増え、コレクションも増えていった。
メディアへの出演が増えると、地元の友人から声をかけられる機会も増える。そして、予想外の知り合いから声をかけられた。高校生活を共に送っていたユニットの1人から、飲みに行こうと誘われたのだ。
ただ、その飲み会で不思議な事実が発覚したという。
「飲み会には僕を含めて3人が集まりました。結婚しているヤツもいました。ひとまず近況を報告したあと、参加していない1人の話になりますよね。“あいつはどうしてんの?”と話を切り出したんですけど、2人とも戸惑ってしまって……。
そんなヤツは知らんって首を振るんですよ。でも、僕はそいつの名前も姿も覚えています。めちゃくちゃ身長が低くて、精神疾患を患っていました。たしかに、存在したはずやのに……」
釈然としなかった田中さんは、事実を確認するために高校時代の記録を見直そうと思い立った。
「卒業アルバムで存在を確かめようと思いました。ただ、やっぱり確認できませんでした。でも、それには理由があるんです。あまりにも学校生活がイヤやったので、卒業と同時にアルバムを燃やしてしまっていたんです。結局、真偽を確認できませんでした」
僕と呪物はビジネスパートナー
幼少期から現在に至るまで、社会の外側にある不思議なことや人と共存してきた田中さん。それが、呪物をすんなりと受け入れる姿勢にもつながっている。
しかし、呪物は持っていると恐ろしいことも引き起こす。呪いの日本人形を迎えたときには、肺炎を患い、意識が朦朧とするような入院も経験した。霊障にもあっているのに、なぜ集め続けるのだろうか。
「“呪物は自分自身です。 お役を終えた呪物が捨てられるのが許せなくて。いじめられていた自分と似ているから可愛くてしょうがないんです”この言葉は同じく呪物コレクターである都市ボーイズのはやせやすひろ君の言葉なんですけど、これには僕も同じような気持ちがあります。
呪物の大半って忌み嫌われているものです。想いを持って作られたのに、いつの間にか捨てられてしまいます。社会から外れてきた僕と似ているところがあると思って。呪物集めは、仲間集めでもあるかもしれません」
社会の外側にはみ出ると、多くの人から冷たい目を向けられ、存在を無視されることもある。ロールモデルも見つかりにくい。逆転できるような手段を持つ人は、ほとんどいない……。だからこそ、仲間やつながりが支えになることもある。
「いまの状況を見ていると、絶対に反動があると思うんです。だから、呪物たちに説明しています。ほんと、あなたたちが働いてくれれば、広い家にも住めると思うのでよろしくお願いしますって。彼らとはビジネスパートナーという関係性なんですが、これだけお金を稼いでくれるので、あとはもう……そろそろ何かで返さなアカンと思います」
田中さんはタバコに火をつけ、ほほえみながらこう話した。今後、呪物たちに何を返していくのか……目が離せない。
(取材:中 たんぺい)
呪物書店~秋葉原に呪物がやってくる~
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)、紙呪(二見書房)、『神戸怪談』(竹書房)などがある。X(旧Twitter):@tetsu_gamon、Instagram:@zatoichi__、YouTube:田中俊行チャンネル『トシが行く』