リング上ではカッコつけていたい
今、全日本プロレスの会場の熱気が凄まじい。「あの1990年代の四天王(三沢光晴、川田利明、小橋健太=建太、田上明)の時代が戻ってきたようだ」と言うファンもいる。実際、若いファンが急増してファン層が明らかに広がっている。
その新しい風景を牽引するのが25歳の若き三冠ヘビー級王者・安齊勇馬だ。思えば安齊が「みんなと約束したいです。必ず俺が三冠のベルトを取り返すから、応援しに来てください。俺のことを見ていてください」とファンに約束し、3月30日の大田区体育館で中嶋勝彦から三冠王座を奪取したことから今の流れが生まれた。
今や安齊が試合後に「これからも全日本プロレスを盛り上げるから、俺のこと見ていてください。俺との約束です」と小指を立てるのが定番。これを目当てに会場に足を運ぶ女性ファンも少なくない。
「まあ結果、自分で自分の首を絞めてるんですけどね(苦笑)。ファンの人たちとの約束っていうのは、自分を背水の陣に追い込んでいますね、ある意味で。デビューした時から期待に対するプレッシャーがずっとあったので、ならばいっそのこと全部引き受けるというか。
やっぱり期待されているのは嬉しいことじゃないですか。応援してくれるファンもたくさんいるので、そういう人たちの期待に応えたいですし、カッコイイところを見せたいから、ずっと約束し続けます」と、安齊は言う。
「僕もやっぱりファンの頃、プロレスラーを見て、ウルトラマンとか仮面ライダーと同じ部類のヒーローみたいな感じだったので、そういう存在はやっぱりカッコよくないといけないと思うので。
負けるのがカッコ悪いということではないんですけど、やっぱりダサいことはしたくないですし、リング上ではカッコつけていたいので、自分を追い込んでいます」というこだわりも語る安齊。“あざとカッコイイ”のはポリシーでもあるのだ。
すぐに押し寄せた数々の防衛戦
中嶋から三冠奪取後、5月29日の後楽園ホールでは2016年から全日本プロレスのエースに君臨してきた宮原健斗を新必殺技ギムレットで下して初防衛に成功。
その喜びに浸る暇もなく、次の挑戦者に鈴木秀樹が名乗りを上げ、6月24日の後楽園で挑戦を退けたが、ビル・ロビンソンの愛弟子で、ロビンソンから“世界で最も危険なレスリング”として知られる英国ランカシャー・スタイルのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンの技術を継承している鈴木との防衛戦もギリギリの戦いだった。
「宮原さんから防衛して一安心する間もなく鈴木さんが来たんで『これが三冠王者なのか…』と思いましたね。鈴木さんは、まず巧いというのがありますし、掴み切れない絶妙な距離感と間合いがあって……一番苦手なタイプです。
じっくり手の取り合いをしながらっていう試合の経験がそんなにないので『何をしてくるんだろう?』っていう怖さがずっとありました。それに全日本では食らうことのない関節技だったり、攻め方をされるので、それに対応するのに体力を使いましたね」