早くも憧れの鈴木みのるとの対決

2022年9月18日、全日本プロレス創立50周年記念大会の日本武道館で新日本プロレスの永田裕志の胸を借りてデビューした安齊勇馬。敗れたものの、IWGPヘビー級王座を2度戴冠し、プロレスリング・ノアでも頂点のGHCヘビー級王者になった永田相手にダブルアーム・スープレックスを炸裂させて「あれはちょっと強烈だったかな。背があるんで、グッと持ち上げて後ろに投げられたらちょっと効きますね」と言わせ、スーパールーキーというキャッチフレーズにふさわしいファイトを見せた。

▲デビュー戦からベテランを相手に立ち向かった安齊勇馬

翌19日、後楽園ホールにおけるデビュー2戦目の相手は何と“世界一性格の悪い男”鈴木みのる。安齊がファン時代にハマり、サインをもらったり、握手してもらった選手だが、優しさは一切なし。ネックロック、フェースロック、アームロックなどで極めるとわずか5分37秒、逆片エビ固めで決着となった。

安齊は憧れの人だった鈴木との対戦を「デビューが決まって『いつか戦えたらいいな』と思っていたら『デビュー戦は永田裕志、次の日は鈴木みのるだから』って言われて、何を言われたのかわからなくて(苦笑)。すっごく緊張したんですけど、リング上で聞く『風になれ』は感慨深いものがありました。

心の中では僕が一番『風になれ』を歌ってましたね(笑)。試合は…やっぱり凄いですよね。親とかにも話したんですけど『指の関節まで全部極められるんだ!』って、やられながら実感したというか。痛いながら感動もありという感じでした」と振り返る。

同世代・ヤングライオンとの対峙

「ジャンボ鶴田、諏訪魔に続く中央大学レスリング部出身の逸材」としてデビューから売り出された安齊は一介の若手とは明らかに違う育てられ方をした。

普通の新人ならば同じ団体の先輩と対戦を通していろいろ教えられながらプロレスを覚えていくが、安齊の場合はデビュー戦が新日本の大物・永田、2戦目は多くのレスラーに恐れられている鈴木、そして10月2日の後楽園ホールにおけるデビュー3戦目は三冠王者・宮原健斗、大日本プロレスの野村卓矢、1年先輩の井上凌とカルテットを組んで新日本の永田、中島佑斗、藤田晃生、大岩陵平との8人タッグ。新日本との対抗戦だ。

新日本のヤングライオンの中島、藤田、大岩にしてみれば、注目されている全日本のスーパールーキーはオイシイ獲物。同世代だけに安齊に異様な闘志を燃やして技術うんぬんではなく、バチバチの喧嘩ファイト。試合は藤田が井上を押さえて新日本に凱歌が上がったが、安齊が一歩も退くことなく、泥臭い喧嘩スタイルで立ち向かったのが印象的な一戦だった。

▲ヤングライオンにも負けじと喧嘩ファイトを繰り広げた

「その時に新日本と全日本の違いを感じたというか。『前に前に!』っていうヤングライオンの人たちに負けてられないなと思って僕も同じような感じになりましたね。デビュー3試合目でああいう試合ができたっていうのはホントによかったなと思って。その後も凄い人たちとシングルマッチをやらせていただきましたけど、退かないようになりました」

永田、鈴木、ヤングライオンという、新人としてはかなりハードルの高い試合を乗り越えたが、次に待っていたのは全日本の暮れの大イベント『世界最強タッグ決定リーグ戦』への出場だ。これまでこの由緒ある大会に最短で出場したのは“ネクスト・ジャンボ”(ジャンボ鶴田2世)として売り出された諏訪魔のデビュー11戦目だが、安齊はそれを更新する6戦目で永田のパートナーとして出場した。

勝ちはすべて永田、負けはすべて安齊の2勝4敗で迎えた12月7日の後楽園ホールでの諏訪魔&KONO(河野真幸)との最終公式戦。安齊は全日本にスカウトしてくれた恩人・諏訪魔にジャーマン・スープレックス・ホールドで自力初勝利。恩返ししてみせた。

「最強タッグはすべてメインイベンターの人たちとの試合でしたけど、永田さんに『全日本でデビューしたけど、安齊にも新日本の闘魂の血が宿っている』って仰っていただいて、自分の中にはそれがあるつもりでしたし『前に前に!』っていうのは常に心掛けていました」