自分の免疫力を高めてウイルスがもたらす病気にかからないカラダをつくること、また、万が一病気になったとしても、 それを治癒できるだけの免疫強化を目指しておくことが大事です。そして免疫力を高める一番の近道も、腸をきれいにすること。私たちの腸に棲む100兆個もの腸内細菌が、幸せとどう繋がるのかのヒントを星子クリニック院長の星子直美医師に聞きました。
※本記事は、星子尚美:著『腸のことだけ考える』(ワニブックス刊)より一部を抜粋編集したものです。
大腸にいる腸内細菌の数…100兆個以上!
小腸で消化吸収された食べ物の残りは、その下の大腸に送られます。大腸は盲腸、結腸、直腸、肛門につらなる長さ約1・5メートルの臓器です。
栄養成分の残りや水分の吸収、そして残りカスである便の排泄がその主な仕事です。
「ゴミを掃除するだけだったら、あまり大した仕事じゃないな」と思った方もいるかもしれませんが、とんでもありません。腸の最後の仕事を締めくくる大腸が正常に働かなければ、ヒトはどれほど健康を害し、病気まみれになってしまうかわかりません。
さて、食べ物の消化・吸収という大仕事を締めくくる大腸ですが、組織そのものの役割は水分と栄養の「吸収」のみです。栄養の「消化」は大腸本体に代わって腸内細菌が行います。
腸内細菌は最近よく注目され、その存在が世間にも広く認められてきました。彼らは、外部から入ってきて勝手に棲みついている侵入者とその仲間たち、つまり私たちにとっての「内なる他者」です。
その数はなんと100兆個以上! 種類にして数百以上!
地球の全人類より多い数の細菌が、私たちのお腹の中に棲みついているわけですから驚かされます。
けれども、この細菌たちのなかには、私たちにとって非常にいい仕事をしてくれるものがたくさんいます。 それがいわゆる善玉(ぜんだま)菌です。
肥満を防止したり、がんを防いだり、糖尿病を改善したり、美貌の大敵であるシミやシワをなくしてくれたりします。こうした菌たちには、ぜひ長くお腹の中にいてもらいたいものです。
しかし、残念ながら腸内細菌は、そのようないい仕事をしてくれるものだけではありません。なかには今述べたこととは正反対の結果、つまり肥満を招くもの、がんを引き起こすもの、老化を進めてしまうものもいます。いわゆる悪玉(あくだま)菌です。
腸内細菌は大別すると、この善玉菌と悪玉菌、そして状況次第で善玉・悪玉のどちらにも変わる日和見(ひよりみ)菌という3種類に分けられます。
私たちの腸壁の粘膜には、この腸内細菌たちがびっしりと生息し、同じ種類の菌たちで集まって棲み分けています。それぞれに色や形が微妙に違っていて、その様子がまるでお花畑(フローラ)のように見えることから、腸内細菌の群れを「腸内フローラ」と呼びます。
内視鏡で見ると細菌群が叢(くさむら)のようであることから「腸内細菌叢(さいきんそう)」とも呼びます。 大腸内には1〜2キログラムの腸内細菌が棲んでいます。ちなみに、便はその3分の1が腸内細菌です。
難病治療でも活躍が期待される腸内細菌
現在、腸の研究とともに腸内細菌の研究も急速に進歩しています。驚くべき機能を持つ細菌が発見されたり、細菌を難病治療に活かす試みが進められたりしています。
腸内細菌が分泌する物質のなかには、インスリンの効きを高めて糖尿病を改善したり、骨密度を高めて骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を防いだりするものも発見されています。
これを応用した治療が世界各地で行われており、健康な人の便に含まれている腸内細菌(腸内フローラ)を取り出して病気の患者に移植する「糞便(ふんべん)移植」も注目されています。
例えば肥満症の人にやせた人の腸内細菌を移植してダイエットを成功させたり、全身に痛みや不調が起こる難病患者に、健康な人の腸内細菌を移植して治癒に導いたりと、驚くべき成功例が報告されています。
腸内細菌は、ヒト由来ではないのがミソです。
例えば、ヒトのカラダではつくれないビタミンKやビタミンB群を合成したり、免疫細胞を活性化させて病気を未然に防いだりします。 私たちの腸に備わっている強力な腸管免疫は、腸内細菌のサポートがあればこそなのです。