気が遠くなるほど細かい骨の組み合わせで構成されたヘビ、触れるだけで怪我をしそうなトゲだらけのハリセンボン、骨からも荒々しい獣性を感じる熊、さまざまな動物を骨格標本にして静態保存しているのが、“いのししの人”さんだ。制作の様子をSNSで発信し、TikTokでは8万4千人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーでもある。

ニュースクランチでは、知られざる骨の世界をSNSで発信し続ける“いのししの人”さんに、動物を骨格標本にして残す意義や、その仕事の魅力についてインタビューした。

▲Fun Work ~好きなことを仕事に~ <骨格標本士・いのししの人>

業務用冷蔵庫に動物の死体がいっぱい

いのししの人さんは、京都に住み、職業はフリーランスの「骨格標本士」だ。動物の死体から毛皮や筋肉・内臓などを極限まで除去したのち、残った骨を再び組み立てて骨格を再現する。大学院時代から独学で骨格標本を作りはじめ、標本制作のオーダーを受け付けるようになった。

「ご要望の内容はさまざまです。大学教授から“授業で使いたい”と依頼されたり、“愛するペットとの思い出を残したい”“釣った魚を記録として標本にしたい”といった個人さまからのオーダーもあったりします。“観賞用の置物にしたいから、カッコいい骨格標本を作ってほしい”と、死体の仕入れから任されるケースもあるんです」

彼が作る骨格標本は、まるで生きた動物を透明にしたかのように躍動感がある。鳥は今にも羽ばたきそうだし、ネズミは天井裏を駆けまわる姿が想像できるほど活き活きとしている。そのリアルで緻密な美しさが好評を博して依頼が殺到し、オーダーストップせざるを得ない時期があるほどの人気なのだ。

「以前は動物の死体の保存のために家庭用の冷蔵庫3台でやりくりしていたのですが、この頃は待機している死体が多くなって収蔵できなくなり、レストランなどで使う業務用の大きな冷蔵庫を購入したんです。自分の作品と依頼の半々のペースでやっていくのが理想ですが、頼まれている標本が8割を超えているのが現状ですね」

▲冷蔵庫の中にギッシリと… 本人X(旧Twitter)より

狩猟を始めた理由は「困窮と空腹」だった

引く手あまたの支持を集める現状ではあるが、最初から標本士を目指したわけではない。幼い頃から動物・生物全般に興味があり、昆虫採集や動物園へ行くのが好きだった彼は、大学時代に猟師となった。そして狩猟を始めた動機は、驚くべきものだったのである。

「一人暮らしをしていたのですが、お金がなくて、食糧のために野生の猪を狩るようになりました。だから、狩猟を始めた理由は困窮と空腹です」

▲罠猟で仕留めたイノシシ。脂が乗っている 本人X(旧Twitter)より

なんと、趣味ではなく、栄養を摂取するため、生きるためにハンターになったのだ。

彼が狩りの方法に選んだのは「くくり罠」という捕獲猟。地中に埋めた板を動物が踏むとバネが反応し、脚がワイヤーで固定されてしまう仕組みだ。そうして罠にかかった猪を槍で突いて駆除する。

仕掛けには準備やコツが必要だし、もちろん猟銃と同じく免許の取得は必須だ。そこまでの面倒を考えたら、アルバイトをして得た給料で、スーパーマーケットで安売りの肉を買ったほうがコスパはいいのでは……。

「そういった手間と比較にならないほど、アルバイトをするのがイヤだったんです。だからお金がなかった。それでもストレスを感じながらアルバイトをするより、自分で食べるために猟をするのが、自分では理にかなっていたんです」