いやいやいや、待て待て待て、待てモッちゃんよ。

あんたパーソナルに30万払ったんでしょ?
いくらダイエットに完全に息詰まってるからって、私30万も払えないよ。

「あ、お金のことは大丈夫!」

いや、何が大丈夫なんだ。
と思ったが、モッちゃんがいうには
あくまで今からするのは、“お友達としての雑談”らしい。

アツオさんは、近々モッちゃんが通っていた大手パーソナルジムのトレーナーを辞めるらしく、今度、個人のパーソナルトレーナーとして独立するそうだ。
そして、その勤めていた大手パーソナルジムの規約で、ジムに通っていたお客さんを自分のお客さんにするのは問題があるそう。

なので、今モッちゃんとアツオさんは “ただの友達”という状態でないとまずいんだとか。

「アツオ、最近この辺に引っ越してきたらしくて。この間、たまたま会ったんだよね。
で、そこで色々最近のアツオ事情聞いて、で、ライン聞いて友達になったの」

なるほど。さすがモッちゃん。昔から割と誰とでもすぐ友達になる女。

「だから、友達との雑談として、アツオに悩みをぶっちゃけちゃってくださいな」

モッちゃん……あんた……私のために……。
ほんと良いやつだな、モッちゃん。

いや、でもなんのお礼も見返りもなしに、雑談とはいえプロからアドバイスを聞いて良いものなのだろうか……?

「あ、有休消化中で暇なんで全然大丈夫です!」

いや、でも……

「あ。じゃあ、僕の話がもし役に立ったら焼き鳥でも奢ってくださいっ!!」

と、彼は白い歯を輝かせ、爽やかすぎるほど爽やかな笑顔で言った。
爽やかな笑顔なのに……確かになんだか圧が強い……。

でもまあ、そう言ってくれるなら、と、私は今までの経緯をアツオさんに話してみることにした。

「なるほど」

と、言いながら数回頷いたアツオさんは、また爽やかな笑顔を浮かべ、まあまあデカめの声で、こう言った。

「ダイエットなんてやめちゃえば!!」

……

ごめんなさい、話し聞いてました??

「ダイエットやめちゃえやめちゃえ!」

ダメだ。この人、話し通じねぇ。
あ、アツオの隣でモッちゃんも同じ顔してる。

「ダイエットやめたら、痩せますよ!」

……え?

どういうこと???

だってダイエットって痩せるためにするものでしょ?
ダイエットやめたら痩せないに決まってるんじゃ……。

それから2週間後――

「え、嘘でしょ」

朝、思わず私は、体重計の上でそうつぶやいた。

これが……
これが……

〇〇ドリルの力なのか……。

今の私の体重は……

10キロ痩せるまで、あと3キロ──