私は家族をバラバラにしてしまった

私は15歳の時に、HKT48のオーディションを受け、合格した。神奈川を離れて福岡へ引っ越すことになったけれど、当時中学生だった私は一人暮らしができず、母がついてきてくれることになった。神奈川の実家には、父と姉が残った。

私が夢を叶えるために、母と2人で福岡へ行く。それは、これまで私のわがままをすべて受け入れてくれた姉から、「母親」という存在を奪ってしまうことを意味していた。きっと一番そばにいてほしい時期に。私は家族をバラバラにしてしまった。その迷惑を一番被っているのは姉だった。

けれど、姉は私に何も言わなかった。悩んでいる素振りも見せず、ただ穏やかな笑顔で私を送り出してくれた。私はその優しさに、またしても甘えていたのだと思う。

▲姉妹の写真(梁瀬鈴雅提供)

アイドルとしての生活が始まり、福岡での暮らしにようやく慣れてきた頃、姉が福岡の家に泊まりに来た。

その日、私は仕事でひどく落ち込むことがあり、どうしても誰かに話を聞いてほしかった。誰かにそばにいてほしかった。けれど、家に帰っても母はいなかった。姉と母は二人きりで、久しぶりの時間を過ごしに出かけていた。

誰もいない静かな部屋で、福岡で引き取った猫たちを撫でながら、ずっと2人の帰りを待っていた。日付が変わる頃、ようやく玄関の鍵が開いた。

楽しそうな2人の話し声が、疲れ切っていた私にはひどく毒に感じられた。仕事でボロボロになっている私をよそに、あまりに幸せそうな顔をして帰ってきた2人をどうしても素直に受け入れることができなかったのだ。

そんな私の重い空気も知らないまま、姉がカバンから猫のおもちゃを取り出した。すると、さっきまで私の膝の上で丸まっていた猫たちが一目散に姉のほうへ駆け寄っていった。

真っ暗な部屋でずっと私を支えてくれていた唯一の味方まで、お姉ちゃんに持っていかれた。そう思った瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れてしまった。

「ずっと待ってたのに。猫まで奪わないでよ」

自分でも気づかないうちに言葉がこぼれていた。あまりに子供じみた、最低な八つ当たりだった。私の言葉に、部屋の空気が一瞬だけ止まった。それから姉は、今まで聞いたこともないような重い口調で静かに言った。

「あなたはいつだって、お母さんを奪ってるじゃん。今日くらい、私にも好きに過ごさせてよ」

ずっと奪っていたのは、私のほうだったのだ。

私は息が止まった。ずっと奪っていたのは、私のほうだったのだ。

姉から母を奪ってしまった責任の重さから逃げたくて、夢を追いかけている自分を正当化し、姉の優しさに甘え、彼女が一人で抱えていたはずの寂しさを「気づかないこと」にしていた。

姉がずっと心の奥底に閉じ込めていた本音を突きつけられて初めて、自分がどれほど独りよがりで、残酷なほど幼かったかに気づかされた。情けなくて、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

それから私たちは、お互いに一言も発しないまま、ただ重苦しい空気だけが流れていた。

結局、その沈黙を破って先に謝ってくれたのは姉の方だった。

「さっきは、冷たい言い方してごめんね」

姉は何一つ悪くないのに、私に寄り添うようにしてそう謝ってくれた。自分の寂しさをずっと隠して、やっとの思いで絞り出したはずの本音ですら、彼女はすぐに引っ込めて私を優先しようとする。それがまた、たまらなく惨めだった。

謝らなければいけないのは、どう考えても私のほうなのに。自分のことしか見えていなかった未熟さと、姉の底知れない優しさが対照的すぎて、申し訳なさで胸が苦しくなった。彼女の優しさは、時としてどんな怒りよりも痛く、私の心に深く刺さった。

▲姉妹の写真(梁瀬鈴雅提供)

今度は私が彼女を支える番になりたい

今も、母は福岡で私の生活を支えてくれている。

そして姉は実家で父と一緒に暮らしている。

毎日、母と姉はビデオ通話をして、他愛もない近況を報告し合っている。画面越しに楽しそうに笑い合う2人の姿を見るたびに、私はあの日のこと、そして自分が背負っている罪のようなものを静かに実感する。

私の今の日常は、姉の献身と犠牲の上に成り立っているのだ。

自分の寂しさよりも私のわがままを優先し、当たり前のような顔をして私の夢を守り続けてくれている姉。その大きな愛に対して、私はこれからもずっと、感謝と消えない申し訳なさを抱えたまま生きていくのだと思う。

いつかまた、姉がふとした瞬間に隠していた本音をこぼしてくれる日が来たら。その時は、私が彼女の歩幅に合わせて立ち止まりたい。今まで言えなかった感謝をすべて伝えて、今度は私が彼女を支える番になりたい。

その日がくるまで、この胸の痛みは消えなくていい。

▲姉妹の写真(梁瀬鈴雅提供)

次回のHKT48 梁瀬鈴雅「鈴の音」は、4月末更新予定です お楽しみに!!


プロフィール
 
梁瀬 鈴雅(やなせ・れいあ)
加入期 6期生 2022年5月
ニックネーム れいあ
生年月日 2006年6月29日
血液型 B
出身地 神奈川県
身長 170cm

趣味・特技
音楽鑑賞・楽器演奏・楽譜、楽器集め・ゲーム・フィールドホッケー/約30種類の楽器を演奏できること・努力・常磐津

メッセージ
自分自身がHKT48の元気と明るさに救われた経験があるからこそ、私も誰かに元気を与えられる存在になりたいと強く思っています。私のパフォーマンスで誰かの心を動かすことができるよう、常に全力で、全身全霊で頑張ります。ぜひHKT48劇場に会いに来てください。絶対に後悔させません!

梁瀬 鈴雅 ​HKT48 公式プロフィール