ティルジッター

くさい度数★★★★

酔狂なあるドイツ人が、女性のにおいを乳製品にたとえて次のようにいった。

「娘はミルク、花嫁はバター、女房はチーズ」

▲娘はミルク、花嫁はバター、女房はチーズ イメージ:PIXTA

まるで出世魚の呼び名のようだが、この分類でいけばティルジッターは「女房のチーズ」に相当するだろう。女房のチーズと聞いてもピンとこない人のために、フランスの小噺(こばなし)をひとつご披露しよう。

連日の戦いで疲れ果てたナポレオン、すでに作戦会議が始まる時間なのに、ぐっすり眠り込んでなかなか起きてこない。

そこでお付きの者たちが一計を案じ、これぞと思う食卓のチーズをひとかけらもってきて、寝ている将軍の鼻先につきつけた。

するとナポレオンはやおら体を起こし、「おぉ、ジョセフィーヌ」と叫んだあと、「今夜はもうこれでよい。余は疲れた」といってまた寝入ってしまったとか。

▲ナポレオン イメージ:PIXTA

このチーズの名は特定されていないが、ティルジッターはそんなにおいである。

ティルジッターは、その表面につくバクテリアと酵母との熟成作用によって表面熟成型のチーズとなっていることから、風格さえ感じるくささに仕上がっている。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中のチーズを食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。