糠(ぬか)漬け

くさい度数★★★

日本を代表する漬物が糠漬けである。糠漬けは、精米するときに取り除かれる糠を使って食材を漬け込み、発酵させたものだ。これがじつに日本人の知恵が詰まった食品なのである。

糠には、炭水化物やたんぱく質、脂質、ミネラル、ビタミンなどの栄養素が驚くほど豊富に含まれている。さらにこの糠を発酵させた「糠みそ」は、発酵微生物の宝庫でもあり、親指の爪ほどの量(1グラム程度)の中に、約3億もの乳酸菌や酵母がひしめき合って存在している。

米ぬか イメージ:PIXTA

ここに野菜を漬け込むと、糠由来の成分や、微生物のつくり出す微量成分が野菜の栄養価をパワーアップしてくれる。とりわけビタミンB群が増えることが知られている。

また、糠漬けを食べると、糠みそに存在する多量の乳酸菌も体内に入ってくる。すると、それらは腸の中で繁殖し、ビタミンを生成して人体に供給してくれたり、腸内に悪玉菌が増えるのを抑えてくれたり、私たちの健康増進に大いに貢献してくれるのだ。もちろん、野菜のうまみやにおいもぐんと高まる。

昔は「食用の糠みそ」を別につくって、料理に使っている家庭もよくあった。

食用の糠みそは、糠をやや硬めに練ってサンショウの実、トウガラシ、ミカンの皮などを混ぜたところに燗(かん)ざましの酒を加えて発酵させてつくるのだが、たとえばイワシやサバなどの青魚を煮るときにこれを適量加えると、魚の生ぐさみがきれいにとれる。

くさいものにくさいものを重ねると、不思議にくさいものが消えてうまくなるのである。

能登や金沢などの北陸地方では、「へしこ」といってイワシややサバをそのまま糠漬けにして食べている地域もある。これもなかなかのくさみを有した嬉しい逸品である。

へしこ イメージ:PIXTA
自らを“発酵仮面”と称し、世界中の漬物を食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。