臭漬(チョウズー)

くさい度数★★★★★

中国にはズバリ「くさい漬物」という名の漬物がある。臭漬がそれである。

臭漬は、浙江省(せっこうしょう)の特産品である「莧菜(ジェンツァイ)」という野菜を原料につくられる漬物で、私も浙江省の寧波(ニンポー)で食べたことがあるが、搾菜など足元にも及ばず、鼻っ柱にシワがよるほど猛烈にくさい。あまりにくさいので、そのまま臭漬という名がつけられたようだ。日本のくさやのようなものである。

浙江省 イメージ:PIXTA

莧菜は、日本ではあまりなじみがないが、中国や台湾ではよく食べられているシャキシャキした歯ざわりが特徴の野菜である。この莧菜を漬けるときの香辛料や発酵微生物の種類によって、 特有のにおいが生み出される。

そのにおいを「くさい」といって受けつけない人がいる一方で、発酵食品大好きの私のような者にとっては、むしろ食欲をそそられるすばらしいにおいである。酸味のある味もすばらしく、酒の肴にもってこいだ。

浙江省で臭漬を食べたときは、地元で一番くさい白酒(パイチュウ)をわざわざ買ってきて、一緒に堪能したのをよくおぼえている。強烈なくさみをもったもの同士を組み合わせると、口の中で互いが互いを打ち消し合うしぐさをとり、まったく別の芳しき香りに変身する。

このときも同様で、くさい酒を飲みながらくさい漬物を食べていると、酒は風格ある老酒のにおいとなり、臭漬のにおいは牧草を干したときの日向香(ひなたか)となって、口の中で美しいハーモニーを醸し出すのであった。

中国では、夏の食欲の落ちる時期に、この臭漬を粥に混ぜてよく食べられているようだ。

中国粥 イメージ:PIXTA

ちなみに、臭漬の漬け汁も当然ながらくさいが、このくさい漬け汁に豆腐を漬けると、あらあら不思議、コクのあるチーズのようなものができあがり、中国ではこれも人気なのである。

浙江省や四川省では、いかにおいしくてくさい臭漬をつくるかが、主婦の腕の見せどころとされていた時代もあったようだ。これらの地域では、莧菜以外にも、羊角菜、牛耳包菜などを原料に使った臭漬もある。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中の漬物を食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。