コロナ禍でも話題に事欠かない北朝鮮との統一を目指す、韓国の文在寅大統領。それぞれが目指す「統一の形」を、コリア・レポート編集長の辺真一氏が解説する。
※本記事は、辺真一:著『もしも南北統一したら』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
北朝鮮が目指すのは「連邦制統一国家」
文在寅大統領と金正恩委員長を比較したとき、決定的とも言える違いがあります。それは文在寅大統領のほうが、明らかに政権が短命だということです。
どうあがいてみても、文政権の任期は2022年5月をもって終わります。
一方、北朝鮮は独裁国家ですから、クーデターでも起こらない限り、金正恩委員長は死ぬまでは政権の座にいられます。これが何を意味するかというと、金正恩は焦らなくてもいいということなんです。
「あと2年で結果を出さなければ」というような、期限を区切って結果を急ぐという必要がまったくない。焦りがあれば、ときには妥協しなければならない局面も出てくるでしょうが、それが北朝鮮にはないんです。これは外交交渉では大きなアドバンテージです。
そのうえで、北朝鮮が目指す統一というのが何かというと、これは一貫して「連邦制統一国家」なんです。
内容としては、北と南が当分の間は今の体制を認め合いながら、南北双方の政府代表からなる最高民族連邦会議を設置し、南北連邦国家としてやっていこうというのが基本です。
つまり、一つの国家の名の下に、資本主義と社会主義という二つの体制が、言い換えればソウル政府と平壌政府という二つの自治政府が共存するという形です。
現実には、今の北朝鮮の体制では、韓国と比較して経済力では倍くらいの差がありますから、統一してからじっくりと時間をかけて国力、経済力をつけていき、やがては対等な関係にもっていくという考え方です。
金ファミリーに伝わる統一構想
この連邦制統一案は、金正恩の祖父、金日成の代から‟ファミリー”に代々伝わってきている構想で、最初に北朝鮮がこの案を出したのは1960年のことです。
韓国の初代大統領の李承晩が、学生運動による四月革命で失脚・亡命した直後のことで、このとき金日成は「一民族・一国家・二制度・二政府」のもとで、「高麗民主連邦共和国」という連邦制国家の創設を韓国側に提唱しています。
このときは、翌年に朴正煕が軍事クーデターで政権を握ったため、北朝鮮側の提案はうやむやになって終わっています。
これ以降も、1972年にニクソン政権が電撃的に中国と国交を樹立したときや、朴正煕大統領が暗殺された直後の翌1980年に、タイミングを見計らうように、3回にわたって「連合統一案」が提案されています。
この3度目の提案は、1980年10月の第6回朝鮮労働党大会における「高麗連邦制案」にもとづくもので、簡単な内容は先述したとおりなのですが、もう少し詳しく言うと次のようなものでした。
2. 連邦常設委員会(連邦国家の統一政府)の設置
3.連邦政府と地域政府との役割を区別
4. 統一政府は民族の全般的利益にかかわる共通の問題を決定
5. 地域政府は連邦政府の指導の下、独自の政策を実施する
6. 連邦国家の性格は、自主・民主・中立
ちなみにこの当時、韓国はまだ全斗煥軍事政権下にあり、民主化されていませんでした。北朝鮮は連邦制による統一の前提条件として、韓国政治の民主化を挙げています。