金正恩委員長「死亡説」が一時的とはいえ浮上するなど、コロナ禍でも話題に事欠かない北朝鮮。そんな「北」との統一に今も執念を燃やす韓国の文在寅大統領だが、コリア・レポート編集長の辺真一氏は、日本の人々は事実を少し見誤っている部分があると指摘する。

※本記事は、辺真一:著『もしも南北統一したら』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

文大統領にとって不幸の根源は南北の分断

韓国の文在寅大統領は、1953年韓国の慶尚南道巨済市に生まれていますが、両親は北朝鮮出身の「失郷民」(シルヒャンミン)と呼ばれる人たちです。

文大統領は北朝鮮からの引揚者の息子であり、離散ファミリーの当事者の一人なのです。いわば、アイデンティティーの源、心の“本籍”は北朝鮮。文氏の心象の根っこは、北朝鮮にあると言っても過言ではないかもしれません。

分断によって引き裂かれた苦しみ、悲しみを両親が実際に体験し、その記憶を引き継いでいるので文氏というわけです。

▲文大統領にとって不幸の根源は南北の分断 イメージ:PIXTA

その文大統領にとって、すべての不幸の根源は南北の分断です。国内における政治対立や、日韓関係のあつれき、米国とのぎこちない関係性など、あらゆる問題の根源は、 朝鮮半島という胴体が2つに分かれていること。

したがって、一刻も早く南北の動脈をつながなくてはならない。文大統領は、そこにものすごい執念を持っている人なんです。

多くの日本の人たちは、「文大統領がイデオロギー的に北朝鮮に共鳴しているからだ」 と考えていると思いますが、それは正しい見方ではありません。祖国分断の悲劇を、人生をかけて解決したいと考えている人物だということです。

そもそも、韓国という国は日本以上の反共国家なのです。これは多くの日本人が知らない事実だと思いますが、非常に重要なポイントなので押さえておく必要があるでしょう。

ソウル五輪をきっかけに金日成を“見た”韓国人

日本という国は、保守系の自民党が与党の座にありますが、そうはいっても社会主義、共産主義を認めています。実際、政党としても共産党や社民党が存在していますが、実は韓国では今もって存在が認められていないのです。

簡単な話が、韓国という国は歴史的に、北朝鮮について「見てはならない、触れてはならない、語ってもならない」というくらい、徹底した反共国家としてスタートしているのです。

初代大統領の李承晩(イ・スンマン)氏、2代目の朴正煕(パク・チョンヒ)氏の時代からはじまって、大韓民国は今もアジア屈指の反共国家です。どれだけその反共が徹底していたか。わかりやすい例を一つ紹介しましょう。

30年以上前、1988年にソウルオリンピックが開催されましたが、その時代まで韓国では、金日成や金正日の顔写真が、メディアによって紹介されたことがなかったのです。

「見てはならない」というのは決して大げさ言葉ではありません。簡単にいうと、「共産主義は悪魔」「金日成は人間の顔をしてない」と。今では考えられないですが、そういうプロバガンダを国民にしてきたのが韓国なのです。

その悪魔であるはずの金日成が、若いころは朝鮮人好みのちょっとした美男子だったんです。とはいえ、そんな事実は韓国政府としては国民には見せることはできません。

ところが、ソウル五輪を契機に、韓国からたくさんの人が日本へ観光や出稼ぎ、あるいは留学で訪れるようになりました。 

ソウル五輪をきっかけに金日成を“見た”韓国人 イメージ:PIXTA

ある韓国人の女性が、銀座か赤坂の韓国クラブでアルバイトをしていたらしく、ある日、家でテレビを見ていたら突然、北朝鮮のニュースが流れ、金日成が現れて、生まれて初めてその顔を見てびっくりしたそうです。

金日成の顔がメディアで流れるのは、日本では普通のことですが、それを見て韓国の彼女は非常に驚いた。 人間というのは不思議なもので、“秘密”を見るとそれを誰かに話したくなります。

それで、母国の韓国へ戻ったときに、親しい友人に「金日成を初めて見たよ!」と話したらしいのです。しかも「我が韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領よりいい男だった」と(笑)。