“性差”による不平等と差別が存在する社会の中で生きる、ひとりの女性ついて書かれた小説『82年生まれ、キム・ジヨン』[日本語版 筑摩書房:刊]は、発売されるやいなや広く話題となり、いまや韓国におけるフェミニズムの啓蒙書として広く知られることになりました。

フェミニズムとは、社会における“性差別からの解放”“両性の平等”を目指す思想・運動のこと。フェミニズムというと、どこか女性の権利を声高に叫んだり、とにかく女性に優しく、といったイメージを持たれている人も多いかもしれませんが、そのコアは、これまで軽んじられていた女性の地位を男性と同じものに引き上げるという、ごくごく、当たり前のこと……。

「今の世の中、そんなの当たり前でしょ? 男女同権なんだから」と思う男性にこそ、そんな“当たり前のこと”がいかに“当たり前でない”のか、ひとりの女性が「クソ女」(!)と呼ばれる覚悟はコレをお読みいただければおわかりいただけるはず。

▲クソ女の美学/ミン・ソヨン 岡崎 暢子(訳)

韓国で大反響を呼んだ衝撃作『クソ女の美学』待望の日本語版(小社刊)が発売。さあ、漫画とエッセイで綴られた少し過激な描写にクスッと笑いながら、「フェミニズムとはなんぞや?」と、ライトに理解を深めてみませんか?

このシチュエーションって変?

まずは、このマンガを見てください。どこか、違和感を覚えるところはありませんか?

▲『クソ女の美学』(小社刊)より

にぎやかな会合で、その場にいる女性がさっとキッチンに立って果物をむいたら、ほとんどの男性は当たり前のようにその果物を口にほおばることでしょう。

「お嫁さんに朝食を作ってもらうのが夢」「家事とか育児はできるだけ手伝って“あげる”んだ」と言う男性がいたら、多くの人は「へえ。いい心がけだね」などと言うかもしれません。

あるいは、田舎に住む義理の母に「女の子しか生まれないなんてねえ」とお小言を言われ、ぐっとこらえる女性も……。

本書の著者であるミン・ソヨンさんは、「私たちはただ、公平であることを願っているだけなのに。そんな気持ちでこの漫画を描き、エッセイを綴りました」と語ります。

一見、「そりゃそうだ!」と誰もが共感する言葉であるかたわら、彼女が言う通り、いかに「公平」でない世の中なのか、男と女が入れ替わったこのマンガを見るだけでも、よくわかることでしょう。

女性にとっては“ホラー”な日常

次に、このマンガを見てください。

▲『クソ女の美学』(小社刊)より

ここにも、女性が男性にくらべて、日常におけるちょっとした場面でも“不自由”を抱える様子が描かれています。

ちなみに、ミン・ソヨンさんも、趣味のひとつである国内旅行先で、SNSに景色の写真をアップした際、行き先を知らせていないにもかかわらず、知り合いの男性から「今、釜山にいるの?」「泊まっているホテルまでは当てられないけど、だいたいどの辺りかはわかる」といったメッセージを受信し、背筋を凍らせた体験があるそう……。

「だったら最初からSNSなんてならなければいいじゃない」と思う人もいるかもしれません。しかし、ミン・ソヨンさんは、その考え方を「君が露出度の高い服を着ていなければ」「君が男の人と一緒に部屋に入らなければ」といった、いわゆる性暴力被害に遭った女性たちが耳にする言葉と、まったく同じだと主張します。

そう、犯罪の被害者ですら避難を浴びるような今の社会においては、相手の男性の動機が好意であれ憎しみであれ、女性たちにとってはそれも等しく「不安で、気色悪くて、反吐が出そうで、災難」にしかならないのですから……。