蒲田はすべてを受け入れてくれる
蒲田が好きです。
蒲田は東京の南端。
東京と神奈川の境目にある、わい雑な街。それが蒲田。
一昔前は、駅の改札を出るとすぐに酒と小便の匂いがした。駅前では家のない人たちが、岩盤浴よろしく床の上に段ボールを敷いて寝ていました。
私はそんな街で育ちました。
大人になる前に街を出てから、蒲田に対する思いはどんどん強くなっていった気がします。
蒲田は優しい街です。ギャンブルで負けたって、仕事で大きな失敗をしたって、好きな子に振られたときだって(ぜんぶ自分の話です)、この街にくれば、酒と一緒に受け止めてくれましたから。蒲田は私の港なんです。
『大黒』は蒲田駅の西口から歩いて2分ほど。飲み屋ばかり並ぶ通りにあります。
とある芸人さんを取材したときに「この店はいいよ」と教えてもらいました。
芸人さんは蒲田周辺で生まれ育ち、今も蒲田に住んでいる、生粋の蒲田っ子であり、さらにお酒が大好き。蒲田の酒飲みが「いい店だ」っていうんです。交番で道を聞くのと同じくらい信用できる。
『大黒』は名古屋から上陸したお店です。名古屋といえば、うまいものの宝庫です。
私が大好きなのが、味噌カツです、あの八丁味噌のきいた甘いタレをかけたら、なんでも食べられちゃいそうだ。ざるそばのつゆも江戸前より甘い方が好きだし、おそらく舌が田舎ものなんでしょう。
さっそく入りましょう。
今日はハイボールの気分だな。メガジョッキで頼んだら、想像以上にでかい。いいねえ。店員さんは元気がよく、大きな声と一緒にドリンクを届けてくれる。気持ちがいいなあ。
「はいどうぞ!」
「プハー」
店に入る前は、「今日は酒を控えようかな」なんて思っていたけど、一口飲んだらもうだめだ。いくらでも飲めるし、なんでも食べられる気がする。人生に大事なのはちょっとの勇気と、ハイボール。さあじゃんじゃん注文しよう。