「仕事ではつねづね土壇場なんです。いっこうに安定しないし、これでひと安心と思えるようなこともないまま、今なお、もがき苦しんでいます」。自らの現状についてそう語るのは俳優・小手伸也さん(46歳)だ。

40歳をすぎてブレイク。シンデレラボーイならぬ「シンデレラおじさん」を自称する。ドラマ『SUITS /スーツ2』や、映画化もされた『コンフィデンスマンJP』でクセのある役柄を演じるなど、TVドラマや映画、CMで強い印象を残しているがーー。

「人生のCrunch(クランチ)=土壇場」について聞くこの連載。今回は小手さんの俳優人生における「土壇場」を振り返ってもらった。

大河ドラマ出演を果たすが次が続かず

小手さんの「それ」は意外にも2016年、NHKの大河ドラマ『真田丸』で大役を得た直後に訪れたという。「『真田丸』はその時点で僕史上、最大の仕事だったんです」それまでの活動の主軸だった小劇場とは、まったく異なるドラマ撮影の現場に「背筋が寒くなるような」プレッシャーがあった。

それでも、堺雅人さんをはじめ共演者が「世界観に招き入れてくれた」こともあって、撮影を楽しむことができた。それどころか、ほとんど縁のなかったドラマ・映画といった映像の世界に、がぜん興味がわいてきた。だが、そこから「次」の仕事になかなかつながらなかったのだ。

「『仮面ライダーエグゼイド』に出たこともあって、認知してもらえる機会は増えたんですけど、爆発的に仕事が増えるかといえば、そうではない。自分のなかでスイッチが入っているのに、ステップアップできない状態が続いたんです」

翌2017年になって『真田丸』でも脚本を担当した、三谷幸喜さん作・演出の舞台『子供の事情』に出演することになった。共演は天海祐希さん、大泉洋さん、吉田羊さんなど錚々(そうそう)たる面々。小手さんはメインキャストのひとりとして選ばれたのだ。

しかし実はこの時点で、舞台のあとのスケジュールが「白紙」だった。「いよいよ好きなことだけやってきたツケがまわってきたな、と」そう振り返る小手さん。このとき43歳。長らく支えてくれてきた妻との共稼ぎ生活も、いよいよ限界が見え始め「僕はここまでかもしれない」と思うようになった。俳優をやめることも頭をよぎった。

▲「ツケがまわってきたな、と」当時の心境を振り返る小手さん