救われた天海祐希さんや大泉洋さんの言葉

しかし『子供の事情』でいよいよ土壇場に直面した。追い詰められていた小手さんは、舞台の共演者に思わずこぼしてしまった。「実は僕、このあとのスケジュールが何もないんです」。すると、天海祐希さんや大泉洋さんが声をかけてくれたという。「『いや小手さんは絶対大丈夫だから』、『この作品で絶対何かにつながる』って本気でおっしゃってくれて。その気持ちは本当にありがたかったです」。小手さんはあらためて腹をくくり「背水の陣」で臨む決意をかためた。

「悩んだとき、相談するのは自分」という小手さんの支えになったのは、20代のころ自分が書いた劇に登場するキャラクターのセリフだ。“不自由のなかでこそ人の意志は輝く”ふだんの小手さんでは「おおよそ思いつかない言葉」だ。演出家としての自分からも、役者としての自分からも解き放たれて、脚本を書いたときに生まれたセリフだった。この言葉にも勇気づけられたという。

結果をいえば、誰もが知るように『子供の事情』は「次」につながった。「そこから少しずつオファーをいただくようになったんです。(自分を)買ってくださったんですね。『実はあの舞台を観たんです』とおっしゃってくれた方もいました」。学生のころのまま「大人になりきれなかった自分」が、ようやく変われた。

そして今、小手さんは、かつての共演者や関係者に「恩返し」のつもりで仕事に向きあっている。「あのとき励ましてもらった分だけ、素敵なお芝居でお返ししたいというか。またいつか、ご一緒できる機会を手繰り寄せるために頑張り続けたい」。

活動休止している自身の劇団を再開させる夢もある。新型コロナウイルスの影響で、演劇の公演がいくつも中止・延期になるのを「悔しい思いで見ていた」という小手さん。そこまで演劇にこだわり続けるのはなぜなのか。

「『リアルタイムでお客さんと一緒に作っていく感覚』ですかね。演劇って、劇場に足を運んでくださった人たちとの『1回きりの創作』なんです。同じ演目でも、お客さんによって作品のテイストが変わることも。逆に言うと、お客さんもある程度、能動的に関わらないと楽しめないところがあるんです。演劇を観たことのある人は、それをわかっていて。だからこそ好きでいてくれるんでしょうね」

そんな演劇ファンのように、人生に対しても「前のめり」で関わっていくことが、おもしろく生きるためのコツかもしれないと小手さんは語った。

▲活動休止している自身の劇団を再開させる夢もあるという