車いすを押しながら、逆に背中を押された

▲最後に、介護の幸せな思い出を振り返ってもらった

田端 ご家族に要介護の人はいないんですか。

りん うちはおばあちゃんが北海道にいて、今、介護施設に入っているんですけど、めっちゃ電話かかってくるんですよ。これも介護やってたおかげで、どういう状態かわかる。一度おばあちゃんが「職員が財布を持っていっちゃった」って電話してきたけど、あ、これは認知症が出ちゃってるなってわかったから「お昼寝してから探してみな」って。介護の経験がなかったら、そういう対応はできなかったと思う。

田端 最後に、りんたろー。さんにとって介護の一番の幸せな思い出があれば教えてください。

りん お年寄りと接していると、癒やしをもらうことも多いんですよね。スローライフの良さというか。一度、前のコンビがダメになって、ひとりでやっていかなきゃいけなくなった時に、おじいちゃんに元気づけられたことがあります。ぼくが車いすを押してたら「おにいちゃん、お笑いやってるんだって? 頑張りなよ」って言ってくれて。これからどうしようって不安なときだったんで、そのときの景色とか、並木道の感じとか、今でも鮮明に覚えています。

田端 今後もぜひ介護の話を、若い世代に向けて発信してください。介護はつらいことばかりじゃないんだ、楽しいことや癒やされることもあるんだって、伝えるだけでもイメージが変わると思う。

りん ぼくにできるのはそれくらいしかないんで。介護って楽しい仕事でもあるけど、やるせない世界じゃないですか。若い人が背負わなきゃいけない現状とか、職員さんの給料が安い現状とか、つらい面もある。ぼくは両面を見てきた立場なので、発信することで少しでも興味を持ってもらえればいいなと思います。


独身中年息子による介護奮闘記。BEST T!MESでも好評を博した「母への詫び状」が、ペンネームだった著者が実名を明らかにし、「介護幸福論」として再スタート。著者は“王様”として業界に名を轟かす競馬ライターの田端到さん。記憶の糸をたどりながら6年間の日々、そこで見つけた“小さな幸せ”を綴っていきます。