亀仙人こと亀廣聡医師は、ホワイトボードを使った診察(レクチャー?)を続けます。うつ病(大うつ病)と間違えられて出てくる診断名の例は「摂食障害」「アルコール依存症」「薬物依存症」「強迫神経症」「強迫性障害」「パーソナリティ障害」「不安神経症」と目白押し。でも、それらも根本を見れば……。

お酒やドラッグに依存してしまう人もいる

亀仙人 「不安やあせり、イライラした感情は、なんとかしたいと思うのが普通だよね」

ひなた 「そりゃそうですね」

亀仙人 「だからそういうときに、とくに若い女の子はガバッと食べて、食べたものを吐くみたいなことをするんだよ。そして気分が瞬間的にスッキリするという体験をすると、それが習慣になる。そういう人が精神科を受診すると『摂食障害』と診断される」

ひなた 「その病名、聞いたことあります」

亀仙人 「問題は『摂食障害』という診断名は、その行動をとらえてそう表しているだけで、根本的な問題が明らかになっていないということなんだ」

亀仙人 「食べて吐く代わりに、お酒やドラッグに依存してしまう人もいる。しばらくの間、不安やあせりを忘れることができるからね」

ひなた 「そういう人たちは『アルコール依存症』や『薬物依存症』と診断されるってことですね」

▲お酒やドラッグに依存してしまう人もいる イメージ:PIXTA

亀仙人 「他にも、通勤途中に猛烈な不安やあせりに襲われて、その原因をカギのかけ忘れだと思ったとしたらどうする?」

ひなた 「家に確認に帰るでしょうか」

亀仙人 「だよね。帰って確認してみると、ちゃんとカギがかかっている。よかったと思ってまた出勤するんだけど、駅まで行くとまた不安になって確認に帰ってしまうんだ」

ひなた 「どうして、そんなことになるんでしょうか」

亀仙人 「カギのかけ忘れが不安の原因ではないからだよ。カギのかけ忘れが不安の原因だったら、一度確認するとその不安は消えるはずだよね。でも、また不安が出てくる。また家に帰る。やっぱりカギはかかっていた。また駅に行く。でもまた不安になる……何度も家と駅を往復しているうちに、仕事に行けなくなってしまうケースもあるんだ」

ひなた 「考えるだけでつらそうですね」

亀仙人 「そういう人が精神科を受診すると『強迫神経症』や『強迫性障害』と診断される」

ひなた 「う~ん……」

亀仙人 「リストカットに代表される自傷行為をする人もいる。それは『痛い!』と感じた瞬間、脳がその痛さをコントロールしようとして、快楽物質のドーパミンや脳内麻薬とも言われるβエンドルフィンが放出される。血が出る……収まってくる……自分が浄化されたような気持ちになるんだ。だから、自傷行為で血を見ることが病みつきになる」

ひなた 「そういう人は、どういう診断になるんでしょうか」

亀仙人 「おそらく『パーソナリティ障害』という診断になるね。みんな、混合状態がつらくて、それを打ち消すために自分でなんとか解決しようと思っているんだ。依存症と呼ばれるものはほぼそうだけど、一時的に不安が軽減されるだけで、行動をやめるとまたすぐに不安が出てくる。つまり、また症状が現れる。そしてまた同じ行動を繰り返してしまう」

ひなた 「そうやって、ハマっていくんですね」

亀仙人 「残念なことに、そういった行動はどんどんと強化されてしまうんだ。そんな依存の仕組みや、依存による精神的・身体的・社会的な弊害、それに依存からの離脱後の禁断症状についても、しっかりと知ってもらう必要がある」