ひさしぶりに真っ赤な夕陽を見た気がした

ホワイトボードにそう書き込んだ亀仙人は、続けて「実際にデータがあるんだよ」と言いながら、数字を並べます。

【気分障害の患者数の変遷】(厚生労働省・患者調査)
1999年 44万人
2002年 71万人
2011年 96万人

【抗うつ薬の市場規模】(富士経済調べ)
2005年 790億円
2013年 1176億円
2022年 1500億円を超える(予想)

ひなた 「うつの研究会とかで、先生のような人がもっと意見をすべきだと思いますけど」

ホワイトボードを眺めながら思わず口にしてしまった私に、亀仙人は首をゆっくり左右に振りながら答えました。

亀仙人 「ずっと前から、こういう話をしている先生はいるんだよ」

亀仙人 「でも、ほんの少数派だし、製薬メーカー主催の研究会では、こういった話を聞く機会もないからね。だから、もっと多くの医師たちにも、この実態を知ってもらいたいんだ」

私の話以外に、心療内科を取り巻くいろいろな話を聞いて、私の頭の中は飽和状態です。これまでの話をまとめるかのように、亀仙人は言いました。

亀仙人 「今日、いろいろ話したけど、誤解しないでね。製薬会社を否定しているんじゃないんだよ。いい薬もいっぱいあるし、抗うつ薬だって、大うつ病にはちゃんと効くんだ。苦しんでいる人に少しでもよい医療を提供するために、まずちゃんとした診断をして、使わなくていい薬は使わずに治療してあげられればと、心の底から思うんだ」

亀仙人 「即効性はないけど、持続性のある方法で、薬に頼らずに治療することは絶対に可能だから。来週からは『こころ』についてさらに勉強しながら、薬に頼らない治療『グッドセルフメディケーション』を、しっかり学んで実践していこう」

亀仙人 「次回、家族と職場の人の分の問診票も忘れずに持って来てね」

ひなた 「……あっ、わかりました」

▲ひさしぶりに真っ赤な夕陽を見た気がした イメージ:PIXTA

外に出ると、もう太陽が沈みかけていました。ひさしぶりに真っ赤な夕陽を見た気がしました。何かこころにつっかえていたものが取れたような気持ちで、私は歩道橋の上を少し足早に歩いて、駅へと向かいました。


※本記事は、亀廣聡・夏川立也:著『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らず、うつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。